• テキストサイズ

君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第8章 軋み【土方歳三編】


両手を掴まれ、更に顔を近づけられる。
そして手の甲を撫でられて、肌が粟立つのを感じながら逃げようとするが、しっかりと手を掴まれていて動けない。

怖い、どうしよう……怖い。
体が震えだし、誰か近くにいないだろうかと辺りを見渡していた時だった。

「千尋!」

大きな声で名前を呼ばれたのと同時に、腕を強く引っ張られて誰かの胸元に抱き寄せられた。

「……ひじ、かたさん……」

私を抱き寄せたのは土方さんだった。
顔を見あげれば、彼は眉間に深く皺を刻みながら少しだけ鋭い目付きで友平様を見ている。

(土方さんだ……)

私を抱き寄せているのが土方さんだと分かった途端、体の震えが収まっていた。
そして、何故かとても安心してしまい、さっきまで感じていた恐怖が消えていのに気が付く。

「申し訳ありません、友平殿。この女子に手は出さないで頂きたい」
「……ほう?もしや、その娘は土方殿の女というのかね?」

機嫌を損ねた声で聞いてくる友平様。
彼の質問に、土方さんはどう答えるのだろうと思っていれば、土方さんは少し間を置いてから言葉を発した。

「……ええ、実はそうでして。この娘は自分の良い女ですので、手を出さないで頂けると嬉しいです」
「ひっ……!?」

土方さんの言葉に、思わず声を上げてしまいそうになると、それを許さないと言わんばかりに土方さんは私を更に強く抱き寄せて、自身の着物に私の顔を押さえつけるようにした。

何故、土方さんはあんな事を言ったのだろう。
困惑と恥ずかしさと色んな感情が渦巻きながら、私は思わず土方さんの着物を掴んでいた。

「……ほう。そうか、そうか。それならば、妾になんぞ出来んな。あの新選組の鬼副長である土方殿を、敵に回したくないからなあ」

背後で足音が聞こえ、友平様が歩いていることに気が付いた。
そして、段々とその足音は遠くなっていき、少し経ってから土方さんがため息を吐いた声が聞こえた。

「行ったな……」

小さく呟くと、土方さんは私から直ぐに体を離した。
安心した温もりが消えた事に、少しだけ寂しさを感じながらも、さっきまで私は土方さんに抱き寄せられていたという事実に顔が熱くなっていく。

恐らく、ううん……絶対に私の顔は今、とんでもなく赤くなっているはず。
私は顔を下に向けながら、両頬を両手で触れば、やはり頬は熱くなっていた。
/ 768ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp