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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第8章 軋み【土方歳三編】


もうそんな時間帯になってるんだ。
近藤さんの言葉に、幹部の方々も立ち上がってからお客様を出迎える為に廊下へと出ていく。

「雪村君達は、ここで待っていてくれ」
「分かりました」

そして土方さんも立ち上がり、廊下へと歩いて行こうとしていた。
結局土方さんからは何も言われなかったなと、少し残念に思っている時……。

「よく、似合っている」
「……え」

私の傍を通り過ぎる際、土方さんは小さく呟くと、広間から早足で去っていった。
彼が居なくなった廊下へと視線を向けながら、私は暫く唖然としていた。

土方さんは、短い言葉だけど『よく、似合っている』と言ってくれた。
それが嬉しくて、少しだけ照れ臭くて、私の頬が少しづつ熱くなっていくのが分かった。

「……千尋、顔が赤いけど」
「え!?あ、赤くないよ!?」

無理がある誤魔化しをしながら、私は手で頬を仰ぎながら熱を消そうとしたのであった。

暫くしてーー
お客人を出迎える為に出ていた近藤さん達の話し声が聞こえてきて、私と千鶴はお互いの顔を見合わせた。

「緊張するね」
「うん。粗相が無いように、頑張ろう。近藤さん達の為にも」
「そうだね」

広間に足音が近付いてきた。
私と千鶴はお互いに顔をまた見合わせてから小さく頷いてから、二人で頭をさげる。

「こちらです。女も二人ですが用意しておりますので」
「そうかそうか。それは楽しみだな!」

近藤さんとお客人と思われる声が聞こえてきて、更に緊張が増してくる。
そして、ふすまがゆっくり開かれると少しだけ冷たい風が頬と髪の毛を撫でた。

足音が広間へと入ってきた。
私はゆっくりと頭を上げると、目の前には近藤さんとその隣に八郎お兄さんと同じ奥詰であるお客人だと思われる方が立っている。

父様と同い歳くらい、黒髪だけどかなり目立つ混じった白髪に、父様よりも深く刻まれた皺。
そして細めながら私と千鶴を、舐めるように見てくる不愉快な目。

(失礼な事だけど、あの目……気持ちが悪い)

息を飲んでいれば、近藤さんが咳払いしながら少し緊張したような面持ちで笑みを浮かべた。

「こちらの二人は、今宵、時尚殿のお酌をしてもらう、えっと……」

近藤さんが固まった。
恐らく、私たちの事を自己紹介するのに本名を言っていいのかどうか悩んでいるのだと思う。
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