第8章 軋み【土方歳三編】
沖田さんは私と千鶴の肩を軽く叩きながら、近藤さんへと微笑みを浮かべる。
すると、土方さんは彼の言葉を聞いて苦い表情をして、八郎お兄さんは目を見開かせた。
「千鶴ちゃんと千尋ちゃんに、お酌をさせるんですか!?駄目です!酔っぱらいの相手をさせるなんて!」
「そうだぞ、総司。それに彼女達になにかあれば、本当に綱道さんに申し訳が立たん」
「相手のお偉さんが、どんなのか分からねえが……そう簡単にこいつらに女として酌させんのは駄目だ」
「じゃあ、土方さんや伊庭君はなにか他にいい案でもあるんですか?島原から遊女を連れてくるにもお金がかかる、でも他に宛がない。じゃあ、この子達に女の子の格好させてお酌させたらいいじゃないですか」
確かに、島原から遊女を連れてくるのにはお金がかかり、それも安くはないと聞いたことがあった。
そして他にお酌してくれる女性がいる訳でもないらしく、土方さんと近藤さんは苦い表情をしている。
こうなったら、私たち……ううん、私がお酌すればいいかもしれない。
そう思っていれば、千鶴が私の袖を再度引っ張ってきた。
「お手伝いしよう、千尋」
「……お手伝いはしたい。でも、千鶴が酔っぱらいの人に絡まれたり変な事されたら」
「大丈夫。ちゃんと自分の身は自分で守るから。だから、大丈夫だよ。ね?」
「……わかった」
もし、千鶴が変な事をされそうになったら守ればいい。
そう思っていから私は土方さん達へと向き直った。
「私たち、お酌します。お手伝いさせてください」
「ほら、近藤さんたち。千尋ちゃんもこう言ってるし、手伝ってもらいましょうよ」
「う、うむ……だが」
「変な事されそうになれば、僕たちで止めればいいんですよ」
「……そうだな。では、雪村君たち、頼めるかな?」
「はい。おまかせください!」
「おまかせください!」
そうして、私たちは女の格好をしてからお酌をする事に。
女性ものの着物は、近藤さんがご贔屓にしている呉服店さんで仕立ててもらい、夜になる前には着物が届いて、私たちは着物を近藤さんから受け取った。
千鶴の着物は淡い一斤染めの着物、私は菖蒲色の着物を身に纏う。
着物を一目見て分かっていたけれど、この用意された着物はかなり高いもの。
「この着物……絶対に高いよね」
「うん……絶対に高いよ」