第8章 軋み【土方歳三編】
宴会会場である広間では、土方さんが眉間の皺を揉みながら苛立った表情を浮かべていた。
隣には、申し訳なさそうにしている八郎お兄さんと困った表情の近藤さんがいる。
何かあったのかな。
そう思いながら、私は三人の元に向かえば、私に気が付いた八郎お兄さんが疲れた表情で微笑む。
「千尋ちゃん、こんにちは」
「こんにちは、八郎お兄さん。あの……どうかされたんですか?困惑されたようは表情をされていますが」
「うむ……実は、今日こられる御仁が【女を用意してほしい】と言われたらしく」
「八郎がさっき、急いで言いに来てくれたが……。女が欲しいなら最初から島原行ってりゃいいのに。面倒くせぇ……」
「妻子が居られて、遊郭に行ったのがバレたら面倒との事で……」
「はあああ……。島原から遊女を連れてこれるか?」
土方さんは深い深い溜息を吐きながら、また眉間を揉んでいた。
「でも、遊女を連れてくるなら相当な資金が……」
「くそ……」
「どうしたものか……」
「あれ?どうしたんですか、三人で集まって」
「おや、何かあったのかい?」
悩んでいる三人の元に、沖田さんと井上さんに千鶴がやって来た。
すると近藤さんは困ったように苦笑を浮かべながら事情を説明をする。
「なるほど。それは困ったねえ……」
「女の人を用意しろって、また面倒な人ですね。もう宴会なんてしないって言えばいいじゃないですか」
「んな簡単に断れる訳ねえだろうが……」
土方さんは苛立たしそうに舌打ちをしていれば、千鶴が私の袖を軽く引っ張ってきた。
そして千鶴の方を見れば、小声で声をかけてくる。
「ねえ、私たちがその……お酌をするのはどうかな?これでも一応、女だし」
「……う、ううん……」
「だ、ダメかな千尋?」
千鶴は恐らく困っている近藤さん達を助けたいのだと思う。
でも、ただのお酌だけで済めばいいけれど、変な事をしてくるかもしれない。
もし、お酌をしている時に千鶴が変な事をされたらどうしようと思い、即答では返事が出来なかった。
だけど、土方さん達が困っている。
普段お世話になっているから、助けになりたいけど……と思っている時だった。
「やだなあ、近藤さんたち。そんなに難しく考えなくてもいいじゃないですか」
「む?」
「ここに、女の子がいるじゃないですか。しかも二人も」
「「え……?」」