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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第7章 混沌【土方歳三編】


私が口にした名前に、沖田さんは静かに頷いた。
そして千鶴も思い出したみたいで、小さく声を漏らしている。

巡察の際に、沖田さんが不逞浪士から助けた南雲薫という女性。
彼女は千鶴と瓜二つと言ってもいい程に似ていて、もしかしたら彼女が、原田さんの邪魔をしたのかもしれない。

「あの子が、原田さんのお仕事の邪魔をしたって言うんですか?」
「君にそっくりな女の子が、京に何人もいると思う?」
「思いません、けど……。でも……、あの子、普通の女の子でしたよ。そんな、尊攘浪士と関わりがある人には見えませんでしたけどーー」
「人は見かけによらないものだよ、千鶴」
「そう、千尋ちゃんの言う通り。……人間、見た目じゃわからないものだよ。あの札にどんな意味があるのか、京に住んでる人が知らない筈ないし」

彼女が犯人とは限らない。
でも、京の町に住み出してから数年になるけども、千鶴に瓜二つの女性は南雲薫さん以外は見た事が無かった。
それに、見かけだけでは判断はできない。

「も、もし……。原田さんの邪魔をしたのがあの女の子だったら……どうするんですか?」
「それ、返ってくる答えがわかってて聞いてるでしょ。……殺すよ、もちろん。たとえ女の子だろうと、敵は敵だし」
「……殺す」

小さく呟いていれば、千鶴が急に立ち上がった。
その表情は困惑しているような、なんとも言えない複雑そうな表情。

「千鶴?」
「あ、あのっ……、私、ちょっとお手洗いに行ってきます」
「あ、千鶴っ!」

いたたまれなくなったのか、千鶴は私が呼び止めてもそのまま部屋を出て行ってしまった。
千鶴の後ろ姿を見ながら、私は顔を俯かせる。

「ねえ、千尋ちゃん。君たちは、他にお姉さんとか妹とかいないんだよね」
「……はい。私と千鶴、二人だけです」
「そう……。にしてもあの子、本当に似てたよね、千鶴ちゃんに」
「……あの、私、外の空気を少し吸ってきます」

席を立ち上がると、隣の部屋に移動した。
そして、窓のふすまを開ければゆるやかな風が頬と髪の毛を撫でていく。
夜の風は涼しくて心地よいけど、私は気分が優れなかった。

引っ掛かるのは、あの南雲薫さんの事。
千鶴に瓜二つであり、そして原田さんの邪魔をしたかもされない犯人。
そして、千鶴はその事についてかなり気にしている様子だった。
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