第7章 混沌【土方歳三編】
土方さんがしどろもどろと言えば、沖田さんはニヤリと笑みを浮かべていた。
何かを企んでいる時の顔だ。
「ええっ?まさか泣く子も黙る新選組副長とあろう方が、呑めないなんて言いませんよね?」
「てめえ、知ってて言ってやがるだろ!わざとらしいんだよ」
皆は和気あいあいと楽しんでいた。
それを見ながら、私はお酒が飲めないので雰囲気を楽しむことにする。
華やかであるお座敷はなんだか現実世界では無い気がする。
そう思っていれば、ゆっくりとふすまが開いた。
「おおきに、お頼申します」
豪華な着物を身にまとい、艶やかな笑みを浮かべる芸妓さんが、ゆったりとした身動きで挨拶をした。
白く透き通る肌、薄らと差した紅、柔らかそうな唇に、細い指。
そして絹糸みたいな黒髪は、同じ女と思えないほどに美しい。
女同士であるのけれども、私と千鶴は思わず彼女にみとれてしまう。
まるで日本人形のようだと思えば、芸妓さんは目を細めながら花が咲き誇るように、妖艶と微笑んだ。
「今晩、お相手させて頂きます。君菊どす。すぐにお料理もできますよって、存分に楽しんでいってください」
程なくすると、お膳に載せられた料理が運び込まれた。
そして、料理が届くと本格的な宴会が始まる。
「やっぱ、高い酒は違うよなぁ!喉がきゅーっとするよ、きゅーっと!」
「平助おまえ、さっきから飯も食わずに呑んでばっかじゃねえか。空きっ腹で飲むと、酔いが回るのが早えぞ」
「いや、屯所じゃこんな高い酒呑めねえし、飯で腹一杯にしちまうのがもったいなくてさ」
「貧乏くせえ台詞だな。今日ぐらいは気にしないで呑んでいけよ」
「さすが傷っぱら……いやいや太っ腹!」
和気あいあいとした雰囲気を見ながら、私は食事を楽しんでいた。
豪華であり、そして味付けも上品で美味しくて、普段自分が作る料理より美味しく感じてしまう。
「料理、美味しいね千尋」
「うん。本当に美味しい……」
二人で食事を楽しんでいれば、永倉さんが私たちの方へと視線を向けてきてから声をかけてきた。
「千鶴ちゃん、千尋ちゃん、楽しんでるか?ん、全然呑んでねえじゃねえか」
「あっ、私たち、お酒呑めないので……。お料理だけ頂いているんです」
「お、そうだったけ。そんじゃ、料理をたらふく食っとけよ。せっかく来たんだから、楽しんでいかねえと損だぞ」