第7章 混沌【土方歳三編】
原田さんはそう言われると、おもむろに立ち上がった。
そして背伸びをしながら、壁に立てかけていた槍を手にする。
「……さてと、そろそろ頃合だな。行ってくるとするか」
「原田さん、お気をつけてくださいね……」
「おう、ありがとうよ」
その晩のこと、事件が起きた。
原田さんたち十番組が待機していたところへ、土佐藩八名がやって来て、立て札を抜こうとしたのである。
そして、原田さんたちは土佐藩と激しい斬り合いになったらしい。
何人かを生け捕りにしたとものの、残りの数名には逃げらてしまったとのこと。
だけども、幕府からは貢献したということで、後日に原田さんたちは会津藩から報奨金を受け取った。
(原田さんが、取り逃すのは珍しい……)
原田さんは、皆さんにそう言われて【夜闇だったので、よく見えなかった】とだけ答えた。
何故か、千鶴を気にしながら……。
それから数日後。
私と千鶴、そして皆さんと一緒に遊郭である島原の【角屋】に来ていた。
「わあ……すごい、華やかで綺麗な部屋」
「うん、すごい……」
私たちは女であるのでもちろん、遊郭なんて来る事は無かったけど、まさかこうして訪れる事があるとは。
そう思いながら、千鶴と部屋を見渡していた。
「いや〜!左之、おまえは本当によくやった!まさか、【報奨金で皆にご馳走したい】なんて言ってくれるとはな!」
「新八さん、褒めるならそこじゃなくて、制札を守りきったってところじゃない」
「いや、そこはもちろん褒めるけどな。それ以上に、ここの勘定を左之が持ってくれるってことに感激して、涙がちょちょ切れそうで……!」
永倉さんは上機嫌だ。
彼はよく遊郭に行かれているらしく、そのせいでお給金が無いと嘆く事がある。
だけど、今回はお勘定は原田さん持ちなので嬉しいらしい。
「皆、今夜は左之のおごりだ!目一杯呑んで日頃の憂さ晴らしてくれ!」
「てめえ、人の金だと思って……」
「左之さん、ありがとう!!今日は勘定を気にせず、好きなだけ呑ませてもらうからな!」
「……みんながみんな、お酒を呑めるわけじゃないんだけどね」
「そう言わずに、せっかく来たんだからうまい物をたんと食っとけ」
「そうですよね。土方さんも、遠慮せずにたくさん呑んでくださいね」
「いや、俺は、酒は……」