第7章 混沌【土方歳三編】
こうして、相馬君と野村君は新選組の秘密を知ったのと同時に正式に小姓として取り立てたてられる。
名実ともに相馬君と野村君は新選組の一員となった。
しばらくしてのこと。
土方さんが気にしていた、三条大橋の制札について、新選組に制札警護命令が届いた。
制札警護は、通常の巡察以外の組が交代で見張るにあたることになる。
警護一日目は幸いなことに、何もおきらなかった。
「ふぁあああ……。あ〜眠っ」
「おいおい、いくら何でもだらけ過ぎだろ。しゃんとしろよ、しゃんと」
「んなこと言われてもよ……。島原で夜明かしするんならともかく、夜を徹して見張りとなると、身が入らねえこと入らねえこと。さすがに今日こそは、何か起きてくれねえとなあ……」
「永倉さん、お疲れ様です。お茶、どうぞ」
「お!ありがとよ、千尋ちゃん」
一日目の制札警護にあたっていた永倉さんは、眠たげに欠伸をしていた。
何も起きないのはいい事だけど、何も無いのもつまらないらしい。
「今夜の当番は……左之、おまえの組だろ?」
「そうだったな。……ま、役目は果たすさ」
お二人がそう会話をしていれば、ふすまが開いて伊東さんと三木さんが姿を現した。
「伊東さん……と、三木さん」
「あら、お三方。もしかしてこの部屋、使ってらっしゃるのかしら?」
三木さんとは、あれ以来二人っきりになったり、千鶴と私だけと接する事は無くなった。
無くなったといっても、私と千鶴の傍には必ず相馬君と野村君がいて、三木さんに威嚇しているのだ。
ふと、伊東さんと三木さんの後ろの方に視線を向ける。
二人の後ろには、伊東派の隊士の方々が列を成していた。
「何だ?ぞろぞろと連れ立って。何か用でもあるんですか?」
「これから【新論】を題材に、同志諸君と議論をしようと思っているのだけど……。よろしければ、皆さん方もご一緒にいかがかしら?」
「……兄貴も、嫌味だな。新論どころか四書五経すらまともに読んでいないような奴らが、議論なんてできる筈ないだろ」
「まあ、この子ったら、何てことを言うのかしら。……お気を悪くなさらないでね、お三方。それと……千尋君。新論について話し合いに参加してみないかしら?この間の三郎の件での謝罪をかねて、歓迎するわ」
にっこりと微笑む伊東さんに、私は思わず顔を引き攣らせてしまう。