第7章 混沌【土方歳三編】
「ああ……【私の闘争を許さず】だ。立場上困ったことになるのは、そっちだぞ」
新選組には厳しい局中法度書というのがあり、それに背いた者は切腹する事になる。
だが、三木さんはそう言われてもなお動揺すること無く相馬君たちを睨み続けていた。
でも、三木さんは自分よりも兄である伊東さんを優先する人。
自分になにかあれば、伊東さんの立場も揺らいでしまうとわかったらしい。
「ちっ……」
舌打ちをすると、面白くなさそうに相馬君の手を乱暴に振り払った。
「偉そうに規則を掲げやがって……。しょせん食うに困ってここに来たんだろうが。脱藩して幕府の陸軍に入り込んで、そこも辞めてここに来たんだろ。……とんだ鞍替え野郎だぜ」
「……っ……」
「言っとくが、オレはただ、そこの兄の方の雪村と風呂でも入って、親交を深めようとしてただけだ。なのにそいつが妙に嫌がるんだよ。ああ、そういえば弟の方も前に、一緒に風呂に入ろうと誘ったら嫌そうに断ったな。だから、何かあるんじゃないかと思ってな」
「何か……だと?」
そういえば少し前に、私も三木さんにお風呂に誘われた事があった。
勿論、一緒に入れば女とバレるからと断ったが、何度もしつこくされて、困り果てた時に山崎さんが要件があって呼んでくれたのでその時は何とかなったのだ。
すると、三木さんは私と千鶴を見るなりまた不敵に笑いだした。
そして、楽しげに声を外せて言葉を発する。
「たとえば、こう見えて実は女とかな。なんなら、二人をひん剥いてみりゃわかるだろ。それで問題なければ引き下がるぜ」
「そんなことは……!」
「何故、そんな事をしなければならないんですか」
思わず冷や汗が背中に流れてしまう。
すると、それまで静かだった野村君が声をあらげながら言葉をかけてくる。
「おいおい、ひんむくとかどの口が言ってんだ?女扱いとか先輩たちに失礼じゃねえか!」
野村君は私たちを助けようとしている。
悪気は無いのはわかっているけど、その言葉は少しだけ複雑というか、納得いかないというか……
「雪村先輩達が女なわけないだろ!てめえの目は春画の見過ぎで節穴にでもなったか?よっぽど、女に飢えてるんだな!はっはっは!」
「……言ってくれるじゃねえか!」
野村君の挑発する言葉に、三木さんは目を吊り上げていた。