第7章 混沌【土方歳三編】
「やっぱり厳しいだろう?辛くねえの?」
「最初は辛かったけど、今は慣れたかな」
「すげぇ……。俺は無理……沖田さん厳しい」
最初はかなり辛かった記憶がある。
でも最近は、直ぐに息が上がったりしなければ、斎藤さんの厳しい稽古に着いていけていた。
辛そうに言葉を吐く野村君に、千鶴は苦笑を浮かべながらアザを冷やしていた。
丁寧に、あまり痛くないようにと。
「沖田さんの稽古は、組長の中でも一番厳しいって評判だから。でも、二人はよくついて行ってると思う。普通はすぐに音を上げるのに」
「確かに、そうだね」
「入隊してからすぐにへこたれていては、笑われますから」
二人はよく頑張っている。
小姓の仕事も、稽古も本当によく頑張っているなと思いなが私は立ち上がった。
「千鶴。私、屯所の門の前の掃除してくるね。ちょっと落ち葉が溜まってたから。あと頼んでも大丈夫?」
「大丈夫だよ。掃除、よろしくね」
そうして私は中庭を出ると、屯所の前へと向かおうとした時だった。
井上さんがお盆を持って歩いているのに気が付き、声をかける。
「井上さん、どうかされましたか?」
「ああ、千尋君。実はね、勇さんに麦湯を持っていこうと思ってね。今、境内の方にいるから」
「あ、それなら私が持っていきましょうか?丁度、門の所に行くので、境内は近いですから」
「なら、お願いしようかね。頼むね」
「はい、お任せください」
私は井上さんからお盆を受け取ると、近藤さんの姿を探した。
そして、何やら悩んでいる様子の近藤さんを見つけて声をかける。
「近藤さん、麦湯をどうぞ。井上さんからです」
「ん、む……、ありがとう。麦湯か、身体の熱を抑えてくれるからいいものだ」
そう言いながらも、近藤さんは腕組みをしながら考え事をしていた。
家茂公が亡くなられてから、先行きが不安な時期であり、近藤さんも立場的に色々と懸念があるみたい。
変に声をかけない方が良いかもしれない。
そう思って、近藤さんの傍から離れようとすると、近藤さんはぽつりと呟いた。
「……今、総司を松本先生に診せてるんだ」
「……松本先生に」
沖田さんは以前から咳をよくされている。
風邪かとおもっていたけれども、かなり長引いているから心配……。
「……それで、松本先生は何と?」
「まだ、何とも……、重病でなければいいのだが」