第7章 混沌【土方歳三編】
「謝ることはない。確かに、公然と批判するのは良くないが……君の懸念は俺も感じていたことだからな。お上のために戦おうという者たちが、近頃はあまりに少なすぎる」
「近藤局長……」
「相馬。……あんたの気持ちはわからなくもない。振るわれぬ刃など、どれほど研がれていてもただ虚しいだけだ。……迷っているのではないか。自分がいるべき場所が本当にそこなのかどうか」
斎藤さんの言葉に、相馬さんは静かに頷く。
そして眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと口を開いた。
「はい。今も迷い続けています。このまま陸軍隊に居続けるのか、それとも……」
相馬さんの言葉が途切れる。
そして、二度三度と口を小さく動かさせながら近藤さんへと真っ直ぐに視線を向けて背筋を伸ばした。
「本日参上したのは、他でもありません。以前、近藤局長からお誘いを受け、再び新選組をこの目で確かめたいと思ったからです」
「……そうか。それで訪ねて来てくれたんだな。それで、君の目から見てどうだね?」
近藤さんの瞳はどこまでも優しい。
微笑みを浮かべながら、真っ直ぐと見てくる相馬さんに質問を投げかければ、相馬さんは小さく頷く。
彼の目には新選組はどう写ったのだろう。
原田さんの巡察の時や、今の様子を見て彼はどう思ったのだろう。
そう思っていれば、相馬さんは真剣な表情をした。
「普通、藩を脱した者は、どこに行っても軽く扱われるもの。一度主を変えた鞍替え者として……。冷遇され弾かれることも少なくありません。ですが、ここは違うと感じました」
「まあ、そういう意味で言うなら、うちなんざはぐれ者の集まりだからな。脱藩者も少なくねえし、そもそも俺自身が、武士の出でもねえ」
「……同じく、俺も他の場所では受け入れてもらえぬ身だった」
土方さんと斎藤さんの言葉に、相馬さんは小さく頷いていた。
「そんな事情を抱えた者でも、分け隔てなく幕府のお役に立てる……それが俺の受けた新選組の印象でした。俺が刀を捧げられるとしたら、ここをおいて他にはありません!」
相馬さんは言葉を切り、近藤さん達を見回してから正面を向いた。
そして、折り目正しく彼らへと頭を下げる。
「ーーお願いします。自分を新選組にお加えください!」
「……相馬さん……」
千鶴はそんな彼を見てから、言葉を零していた。