第7章 混沌【土方歳三編】
しばらく、近藤さん達を待っていればふすまが開いて、近藤さんに土方さんと斎藤さんが広間に入ってきた。
「ご無沙汰しております、近藤局長、土方副長。斎藤さん」
「おお、よく来てくれた相馬君!先日の視察以来か」
「はい。陸軍隊が大阪に戻るのに合わせ、足を伸ばして顔を出させて頂きました」
「陸軍隊か。先日の征伐では、かなりの被害が出たと聞くが」
「相馬さんはお怪我とか、なさらなかったんですか?」
千鶴の心配そうな質問に、相馬さんが僅かに顔を曇らせた。
そして口ごもってしまうので、千鶴と私は首を傾げてしまう。
しばらくして、相馬さんは躊躇いを織り交ぜながらも、ぽつぽつと顔を曇らせながらも口を開いて話をしてくれた。
「実は……俺も陸軍隊として参戦しましたが、先の戦では予備役として留め置かれたために、ほとんど戦う機会がありませんでした」
成る程、だから相馬さんは千鶴の言葉に顔を曇らせたんだ。
戦にほとんど参加出来ていないことが、恐らくだけど気にしているのだろう。
「そいつは残念だったな。とはいえ、待機も任務のうちだろ」
「はい。ですから俺は、そんな状況でもいつでも戦に関われるように備えていました。ですが……。そう考えていたのは俺だけで、周りの者はそう思っていなかった。【前線に出ないで済んだ】【ほっとした】【戦は誰かに任せればいい】」
相馬さんは眉間に皺を寄せていた。
怒りのような、悔しそうな表情をした彼は視線を床へと落とす。
「聞こえてくるのはそんな声ばかり。兵だけでなく上役までがそうでした」
「……仕方あるまい。皆が皆、武士の誇りを持っているわけではない、ということだ」
「それで、陸軍隊に失望したってとこか?」
「いえ……。失望したと言うより憤りを感じました。武士として誇りを持つために脱藩までして入隊したのに、以前といた藩とそう変わらない現状……。たまたま配属先がそうだっただけかもしれませんが……あまりにも……」
彼の表情には深い苦悩が刻まれている。
誇りを持ちたくて、脱藩したのに配属された先が脱藩した同じようなところ。
本気で武士として誇りを持って、頑張ろうとした彼にとっては悔しかったのだろう。
「……すみません。お上の軍に対してこのようなことを言ってしまうとは……」
彼は申し訳なさそうにしていれば、近藤さんが慌てて口を開いた。