第7章 混沌【土方歳三編】
「どんな相手ですか……?」
「浪士風の男だ。先程からうろうろと、同じところばかり回っている。間者の類か、それとも……」
そう呟いた山崎さんの動きは速かった。
懐に手を入れると、突然地を蹴って走り出し入口へと向かった。
「うわっ!?」
「どこの手の者だ。所属と名を名乗れ!」
山崎さんは一瞬の間で、相手の腕をねじり上げてから手元の短刀を突きつけている。
一体誰がいたのだろうと振り返れば、そこには見覚えのある人物が立っていた。
「ご、誤解だ!俺はただ、ここが本当に新選組の屯所か確認しようと……!」
「相馬さん!?」
「え、相馬さん……?」
そこにいたのは、なんと相馬さんだった。
彼は慌てて山崎さんへと弁明していて、腕をねじ上げられているせいなのか痛そうに顔を歪めている。
すると、彼は私たちの顔を見るとぱっと顔を輝かせた。
「雪村さん達……!」
「どうしてあなたがここに……」
「……雪村君たち、知り合いか?」
「はい。近藤さんも知っている人ですし、悪い人ではありません」
千鶴がそう言うと、山崎さんは直ぐに相馬さんの腕を離していた。
「客人だったか……。手荒な真似をしてすまなかった」
腕を離してもらった為か、相馬さんはほっとしたように息をついていた。
そして、相馬さんは申し訳なさそうにしている山崎さんへと謝罪を述べる。
「いや……疑われるような真似をした、俺にも落ち度があった」
「でも、どうして屯所の前でうろうろしていたんですか?声をかけて下されば、取り次いでもらえたのに……」
「あれじゃ、ただの不審者ですよ」
「ふ、不審者……。その、まさか新選組がこんなところに屯所を変えたなんて、思っていなかったから……。それに、今の俺は……その……」
顔を曇らせて、口ごもる相馬さんに私と千鶴は首を傾げた。
何かあったのだろうかと思いながら、彼の様子を見ていれば、何故か辛そうにしているので、尚更疑問を抱いてしまう。
(もしかして……脱藩してる事とかに関係してる?)
そう思いながらも、相馬さんを監察するように見ていれば千鶴が彼に声をかけた。
「……とりあえず、ご案内するので、近藤さんたちに会っていってください。きっと幹部の皆さんも、喜んでくださると思いますから」
そうして、山崎さんに取り次ぎをお願いしてから私たちは相馬さんを屯所の中へと案内した。