第7章 混沌【土方歳三編】
強大な力を持っているはずの幕府。
そんな幕府が、地方の一藩にしかも朝敵である長州に敗北したという事態。
まるで、幕府の行先に暗雲のように不安な影を落としていった。
第二次長州征伐が失敗に終わってから、暫くの日にちが経った夏の日。
私と千鶴は、山崎さんに手伝ってもらいながら雑用を終えて一息をついていた。
「すみません、山崎さん。料理に洗濯まで手伝って頂いて」
「本当にありがとうございます。凄く助かりました」
「別に大した手間でもない。それより、なぜ君たちが食事の準備を二人でやっていたんだ?今日は確か、他にも当番の者がいたはずだが」
その言葉に、私と千鶴は苦笑を浮かべた。
山崎さんの言う通り、本来は今日は私は当番でないし、千鶴は他の当番の隊士の方々と準備をする筈だったのだ。
「実は……手伝ってくださるはずの人が、伊東さんの勉強会に参加されるそうなんです」
「私も誘われていたんですが、千鶴が一人になるからとお断りして……」
「……伊東さんか」
山崎さんは、伊東さんの名前を聞くと苦い表情をしやがらため息をついてしまった。
最近だが、伊東さんと周りの方々は決め事を守らない事が増えている。
永倉さんたち曰く、伊東さんたちは新選組に不満を抱いているらしい。
そして、私のところに伊東さんは前よりもまして来るようになっていた。
「この分では勉強会とやらも、何を話しているかしれたものではないな」
「聞いた話だと、今日は先日の長州征伐についてだそうです」
「確か……諸藩から兵を集めて攻めたにも関わらず、幕府が長州一藩をーー」
私と千鶴が、伊東さんが今日行う勉強会についての話を聞いていたので、それを山崎さんに話そうとした時だった。
「……しっ!」
山崎さんが突然言葉を制して、私たちに声を出さないように合図を送る。
突然の事に驚いていれば、山崎さんは鋭い目をして辺りを警戒するような様子を見せた。
「どうかされたんですか、山崎さん?」
「なにか、あったのですか……?」
「視線を動かさずに聞いてくれ。屯所の入口から中を窺っている者がいる」
「え……!?」
「屯所を、窺っている……?」
よく見れば、山崎さんはさりげなく私たちの背後へと向けられていた。
私たちは丁度屯所の入口に背を向けているので、誰がいるか分からない。
だけど、確かに入口から気配は感じた。