第7章 混沌【土方歳三編】
「それは違うぞ、トシ。いくら自分の藩に不満があろうとも、脱藩を選ぶことのできる人間は少ない。道を変えるには大きな決意がいるものだ。相馬君は言っていたよ。自分の藩は幕府のために戦おうという気概がない。だからこそ、自分は去ったのだと。……今時、なかなか見どころのある若者じゃないか」
侍というのは私にはよく分からない。
だけど、脱藩というのはかなり凄いことというのは、伊庭道場に通っていた時に何度か聞いたことがある。
相馬さんが自分の藩に不満を抱いていたのは、初めて会った時や原田さんの巡察に同行した時に再会した際に、何となくわかっていた。
でも、脱藩するだなんて思わなかったので驚いてしまう。
「剣の腕は大したこと無さそうですけどね。平助たちの話だと、浪人に殴られて倒されたらしいし」
「おまえの基準で言ったら、ここにいる奴等の半分は【大したことない】ってことになっちまうだろうが。……んで、近藤さん。相馬はその後どうしたんだ?」
「うむ。立派な志の若者だったし、改めて新選組に誘ってみたよ。幕府に仕えるという意味では陸軍隊も新選組も変わらない。君さえよければ、新選組に来てはどうかも」
「それで、お返事は?」
千鶴の言葉に、近藤さんは苦笑を浮かべる。
その様子だと、相馬さんはいい返事をしなかったみたい。
「残念ながら悩んでいる様子だった。まあ、目前に戦も迫っているからな。まずは長州を倒してからということだろう」
「……長州を倒す、か。そううまく行きゃいいがな……」
「うまく、行かなさそうなんですか?」
土方さんの言葉に、そう質問すれば土方さんは苦い顔をしてため息を吐く。
「不満が出てるって、さっきも言っただろう?しかも士気が下がっていれば、そこからボロが出ちまう。だから……長州征伐がうまくいくかわからねえ」
そんな土方さんの不安を裏付けるように、第二次長州征伐は幕府の敗北という結果に終わった。
失敗の要因はいくつかあったらしいけど、一番の理由は戦の最中で徳川家茂公が亡くなられた事で、幕府方の指導系統が混乱してしまったことらしい。
もう一つの理由。
それは、長州が最新式の銃を使っていて、幕府との武器に大きな差があったこと。
そしてそれ以上の大きな要因は、幕府の求試力の低下だった。