第7章 混沌【土方歳三編】
「お前は早く部屋に戻って寝ろ」
「土方さんも、ちゃんと寝てくださいね」
「わかった、わかった」
そして、私は中庭を出ると自分の部屋へと戻った。
布団に潜り込むと、土方さんはきちんと寝ているだろうかと考えてしまう。
(最近、土方さんの事ばかり考えてる……。なんでだろう)
医者の娘として、不健康な生活をしている土方さんが気になってしまっているのだろうか。
それとも別の理由があるのだろうか……そう思いながら、私は眠りにつくのだった。
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ー慶応二年・八月ー
幕府と長州藩との間に、深い亀裂が走った禁門の変の後、幕府は長州藩へ制裁を加えるために、征伐軍を派遣したのであった。
その時長州藩が直ぐに退いたおかげで、互いに大きな被害は出なかったものの……。
その長州征伐から二年の時を経た、慶応二年八月。
幕府は再び長州藩へと制裁を下すべく、多くの兵士を京に集結させていたーー。
「ーーと、いうことで。俺が軍を視察してきたところ、幕府側の兵力は十分のようだ。少なくとも、長州の兵力を大きく上回っているのは間違いない」
「そりゃ、戦をするなら兵が多いに越したことはねえが……。かといって、数が多くても仕方ねえ。今回の戦には不満な奴も多いんだろ?」
「うむ……嘆かわしいことに兵の士気は高くないようだった。それが弱点にならなければいいのだが……」
気怠さを感じてしまうぐらいの、暑さの季節。
肌には汗がじんわりと滲み、不快感が押し寄せてきていた。
私と千鶴は、土方さんの部屋へとお茶を運び、征伐軍の視察を終えて戻ってこられていた近藤さんの話に耳を傾けていた。
すると、千鶴は恐る恐ると質問をする。
「あの……今回の戦には、新選組も参加することになるんですか?」
「俺たちの役割は、京の治安警護だ。京を離れて戦をするのは、他の奴らの仕事だとよ」
「残念な話ですよね。手柄を立てるいい機会なのに」
土方さんの部屋にいた沖田さんが、そう呟けばいさめるように土方さんが言う。
「そう逸らなくていい。機会なんざこれからいくらでもある」
「まず、沖田さんは手柄云々の前に体調を良くしてください」
「千尋ちゃんさ、最近また口煩くなったよね?」
「口煩くさせてるのは、沖田さんなんですよ」
私がそう言うと、沖田さんは口を尖らせてそっぽを向いてしまった。