第1章 始まり【共通物語】
「出口は……覚えてる?千尋」
「覚えてる」
「じゃあ、きっと何とかなるはず」
そう言って千鶴は立ち上がると、息を殺してふすまに近づいて足の爪先を引っ掛けてふすまを開こうとする。
だけど、その時急に自然とふすまが開いてしまった。
「ぬあっ!?」
「きゃ!?」
「千鶴!?」
千鶴は急に開いたふすまの向こう側にいた近藤さんに、正面から激突してしまった。
まさか、ふすまの向こうに近藤さんたちがいるとは思ってはいなかった。
「おや……すいぶん大胆な方たちですね。まさか逃げるつもりだったんですか?」
「こ、これは……」
「勝手に動いては困りますね。君たちの身が、余計に危うくなるだけですよ?」
今更分かってしまった。
私たちが身動きできないように、きつく縛り直さなかった理由。
恐らくこの人たちは、この状況で私たちがどういう行動を取るか見定めようとしていたに違いない。
「逃げれば斬る。……昨夜、俺は確かにそう言ったはずだが」
「残念だけど、殺しちゃうしかないかな。約束を破る子たちの言葉なんて信用できないようにからね」
こうなったらヤケクソだ。
そう思った私は、腕を大きく振り上げて目の前にいる土方さんに肘で攻撃しようとした。
だが動きがバレていたようで土方さんに手首を掴まれてしまう。
「たく、大人しくできねぇのか」
「出来るわけないでしょう!!離してください!」
「離したら俺に攻撃して、逃げるんだろうが、このアホウ!」
「でも死にたくないですから!それに、私は…しなくちゃいけないことが、千鶴を死なせたら…ダメだから」
「ふん……。年端も行かねぇ小娘たちが、下手な男装までして何を果たそうってんだ?」
「「……え?」」
今、土方さんは私たちの事を『小娘』って呼んだ。
その言葉に驚いていれば、土方さんは私の手首を離してくれた。
「……あの、土方さん」
「あの……今、小娘って」
恐る恐ると私と千鶴が聞けば、山南さんは納得したように頷いていた。
「……なるほど。やはり女性だったんですか、君たちは」
「どう見ても女の子だよね。君たちはきれいに化けたつもりかもしれないけど」
「……まさか、皆気付いていたんですか!?」
いや、普通に気付くと思っていた。
千鶴はバレないと思っていたが、私は自分たちの男装は普通に見破られると確信はしていたのだから。