第1章 始まり【共通物語】
「……そういうことにするか。ちょっと調べたいこともあるしな」
「私もその判断には賛成します。ここには、うかつな方も多いですしね」
「うっ、山南さん……。わざわざこっち見て言うとかキツイよ」
「ま、仕方ねえよ。うかつなのは俺らの担当だろ。主に平助とかな」
「そ、そんな責めるなよ!オレだって悪気はなかったんだからさ!」
責められた藤堂さんはムキになって声を荒らげていた。
だが、事実だし先程藤堂さんはうかつで言ってはいけないことを私たちに聞かせてしまったのだから。
暫くして、藤堂さんは私たちの顔色をうかがってきた。
そしてもごもごとしながら、私たちにまるで申し訳なさそうな表情をしながら呟いた。
「あのさ……わ、悪かったな」
ここで、気にしないでくださいなんて言えない。
だが『気にすることなんて出来ません』とも言えず、私と千鶴はただ頷くことしか出来なかった。
「それじゃ、斎藤、こいつらを頼む」
「承知しました。……行くぞ」
「……はい」
「は、はいっ」
部屋に戻された私たちは、無言のまま縛られた手首を見たり部屋を見渡したりしていた。
「千尋」
「うん?」
「なんだか、新選組の人ってちまたで聞く評判のわりには人間味がある人達みたいだったよね。それに、【できれば殺さないようにしたいけど、秘密を守るには殺すしかない】みたいな感じがあったし……」
「そう、だね。人斬り集団って聞いてたけど、なんだか優しそうな人達はいたね」
「でも、このまま黙って待っていたら殺されるよね」
「かといって、説得は難しそうだし……」
恐らく、あの人たちは私たちの事情より自分たちの都合を優先するだろう。
ならば私たちが助かる可能性はないかもしれない。
「あ、でも……。男らしく覚悟しろって言っていたし、実は女ですって素直に言えば状況は少し変わるのかな……?」
「それは……分からないけど、難しいんじゃないかな」
「……そうだよね……どうしよう」
暫く考えていると、千鶴は何かを決意したような表情をして私を見てきた。
「千尋、逃げよう」
「……え?」
「ここで動かなきゃ、きっと事態も好転しない。それに幸い、私たちの自由を奪ってるのはこの手首の縄だけ。不便だけど足は動くから」
「そう、だね」
ここに居ても、どのみち殺されるかもしれない。
なら、逃げる方が良いかもしれない。