第7章 混沌【土方歳三編】
「あの、私が父の代わりに羅刹の……変若水の研究をしてはいけないでしょうか?」
「はあ!?……何言ってんだ。そんな事、無理に決まってんだろ」
「絶対に無理とは言えません。父ほどの知識も医術もありませんが、父の手伝いや興味があって薬の研究は何度もした事があります」
ずっと思っていたのだ。
父が行っていた研究ならば、私に関係がないとは言えない。
それに、江戸の家には父が残している研究についての資料がある筈なのだ。
「江戸の家には、恐らくですが研究についての資料があるはずです。それを読み解けば、研究は出来るかもしれません。それに……変若水を研究していたならば、羅刹を救う方法……副作用の抑え方の資料があるかもしれませんし……。父がしていた事を、他人事にだなんてできない……。江戸の家になにかあるはず……」
「……落ち着け、雪村」
土方さんの静かな声が、私の言葉を遮った。
「綱道さんも羅刹の実験を進めてる途中だったんだ。おまえの家に戻ったって、今わかってること以上のものは、まず存在しねえだろうな」
「……そうかも、しれませんが」
「余計なことを考える必要はねえ。それに、ますます悪い結果が出たら、おまえはどう責任をとるつもりだ?」
彼の言う通りだ。
もし、研究したって私が失敗して悪い結果が出てしまったら意味がない。
私は多少、蘭学の知識を持っているだけ。
そんな私より知識を持っている父様が、結果を出せていなかったのだ。
副作用を抑える方法なんて、私が見つけれるはずがない。
「父様が、結果を出せてないのに……私が出来るわけないですよね。すみません……」
「……前にも言ったが、あまり自分を追い込むんじゃねえ。たく、おまえは本当に自分を追い込むんだな」
頭を下げる私に、土方さんは苦笑いを浮かべていた。
「まあ、おまえの気持ちは俺が受け取っといてやる。だから大人しく待ってろ。羅刹についちゃ俺ら新選組が解決しなきゃならねえんだ」
「……はい」
「自分の父親が、羅刹の研究をしてたからって……娘のおまえが責任を取ろうとする必要はねえ。だから、おまえは綱道さんの調査をしてる監察方からの結果が出るまで待ってろ。おまえみたいなガキは、大人に任せときゃいいんだ」
「……ガキなんかじゃ、ないです」
私がそう呟けば、土方さんは呆れたように笑みを零していた。