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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第7章 混沌【土方歳三編】


「それじゃあ、私はあちら側を掃除してくるね」
「うん!」

中庭に出てから、私は千鶴とは離れた所へと向かって竹ぼうきで掃除を始める。
落ち葉や枝木が落ちているのを集めていた時だ。

「千尋君」
「あ、松本先生……」

名前を呼ばれて振り返れば、そこには先程沖田さんと共に外へと向かわれていた松本先生の姿があった。
沖田さんと何を話されていたのだろう、なにかあったのかなと気になるが、変に聞かない方がいいかもしれない。

父様もよく言っていた。
患者さん達の健康状態を、無闇矢鱈と周りの人に話すべきでものでもなく、そしてやたらと聞くものじゃないと。
だから、私は聞くことを辞めた。

「どうかされましたか?」
「君の姿を見かけたからな、思わず声をかけてしまったんだ。特に用があるわけじゃないが……掃除の邪魔をしてしまって申し訳ないな」

恐らく、松本先生は私たちの事を気にかけてくれているのだろう。
そして、ふと私は父様の言葉を思い出した……【まだ知らなくていいんだよ】と私に言った父様の言葉。

「あの、松本先生。実は私、江戸にいた頃に恐らく変若水を研究している父様の姿を見かけたのです」
「……そうなのか」
「はい。普段から、父様はよく家でも薬を作ったりしていたので、また何かを作られているのかなと思って、何を作られているか聞いた時に、父様は教えてくれませんでした」
「幕命で、秘密裏に実験されていたものだからな……。やはり娘である君たちにも教えられなかったのだろう」
「ですが、父は言っていたのです。【知らなくてもいい】ではなく、【まだ知らなくてもいい】と。父様の【まだ】とはどういう意味なのだろうと……」

私の言葉に、松本先生は眉間に皺を寄せながらも思案している表情を浮かべていた。

「ふむ……【まだ】か。その言い方だと、綱道さんは君に何時かは話すつもりだったのかもしれんな」
「やはり、そうなのでしょうか……」
「……あまり、深く考えなくても大丈夫だ千尋君。理由は、綱道さんが見つかったら聞けばいい」

松本先生は微笑みながら、私の両肩を優しく叩いてくれた。
確かに、父様が見つかれば聞けばいい事なのだろうけど、どうしても気になってしまう。

早く、父様が見つかりますように。
そう祈りながら、私は暫く松本先生と談話を続けたのであった。
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