第6章 宵闇【土方歳三編】
私と千鶴を引きずりこむように、風間千景の手がゆっくりと伸びてきていた。
この手を千鶴に近付かせてはいけない……そう判断した私は刀を直ぐさま抜き取る。
「近付くな!」
そして、刀を風間千景に目掛けて横に振るが、意図も簡単に避けられてしまう。
すると、風間千景は愉快そうに微笑みを浮かべていた。
「ほう……。おまえは東の鬼を守る方の一族か?」
面白げに囁く風間千景は、またゆっくりと手を伸ばしてきた。
その瞬間である。
白刃が闇を切り裂いていた。
「おいおい、逢引ならもう少し、色気のある場所を選んだ方がいいんじゃねえか?」
「……またおまえたちか。田舎の犬は、目端だけは効くと見える」
「……それはこちらの台詞だ」
「原田さん!斎藤さん!」
私たちの目の前には、原田さんと斎藤さんの姿があった。
彼らの姿を見た途端、私は緊張の糸が切れたのか、それとも安堵したせいなのか、目眩がしてその場に崩れ落ちそうになる。
「千尋!」
崩れ落ちそうになれば、千鶴が私の名前を叫ぶ。
だが、崩れ落ちる前に私の肩を無骨な手が掴んでから支えると、後ろへと引いた。
「……下がってろ」
「……ひじかた、さん」
私を押しのけるように前に出たのは土方さんで、彼の手には既に刀が握られていた。
そんな彼を見ていれば、千鶴が駆け寄り私を支えてくれる。
「大丈夫!?」
「うん……ちょっと、安堵したら目眩が……」
千鶴が心配そうに顔を覗き込むので、安堵させる為に笑顔を浮かべた。
そして、土方さんの方へと視線を向ければ、彼は風間千景へと刀を向けている。
「……将軍の首でも取りに来たかと思えば、こんなガキ達に一体何の用だ?」
「将軍も貴様らも、今はどうでもいい。これは、我ら【鬼】の問題だ」
「【鬼】だと?」
風間千景の言葉に、土方さんはゆっくりと目を細めていた。
あの男の発言の真偽を探っているようで、彼の眼光の色は鋭くなっている。
「へっ……こいつのツラを拝むのは、禁門の変以来だな……」
「腐れ縁ってとこか?……大してうれしくもねェがな」
「再会という意味では、こちらも同じくだ。……だが、なんの感慨も湧かんな」
「我々の邪魔立てをするつもりですか。ならばーー」
原田さんは不知火匡を、斎藤さんは天霧九寿の目の前に立ち塞がっていた。