第6章 宵闇【土方歳三編】
そして、千鶴は困惑したかのように彼らに言葉を投げかけた。
「……あ、あなた方が言っている言葉の意味がわかりません。【鬼】とか、私たちを捜していたとか……。私たちを、からかっているんですか!?」
「……【鬼】を知らぬだと?本気で言っているのか?」
風間千景はいつの間にか私たちの目の前に立っていた。
そして、闇を背に抱いきながら一歩ずつ踏み出して近寄ってくる。
心臓が痛い。
私は息をゆっくりと吐きながら、刀の柄を強く握り締める。
すると、天霧九寿が静かに低い声でまるで子供をいさめるように言葉を発した。
「君たちはーー負った傷が、すぐに癒えませんか?」
「っ……」
「並の人間とは思えぬ程、怪我の治りが早くありませんか?」
辞めて、それ以上は何も言わないで。
そう叫びたいのに、言葉が喉に引っかかって何故か出てこない。
すると、千鶴が背後で動揺しているのが伝わった。
「そ、そんなことは……」
「あァ?なんなら、血ィぶちまけて証明したほうが早ェか?」
不知火匡が手にある銃を動かせば、月に照らされて不吉な光が帯びる。
その銃は千鶴へと向いていて、私は咄嗟に叫んだ。
「千鶴に手を出さないで!!」
「千尋……」
すると、風間千景は不機嫌そうに不知火匡を睨みつけると唸るような低い声を出した。
「……不知火。貴様、貴重な女鬼たちに傷を負わせるつもりか?」
「ンなこと言われても、こいつらの往生際が悪ィんだからしょうがねえだろうが。そっちの奴は、一丁前に殺気を出してやがるし」
風間千景は再度、不知火匡を睨みつけると、千鶴の腰にある小太刀と私の腰にある刀へと交互に目を向けた。
「……多くは語らぬ。鬼を示す姓と、東の鬼が待つ小太刀と刀……証拠としては充分に過ぎる」
「姓……?雪村の姓が、何だっていうの……?」
千鶴の言葉に冷や汗が浮かぶ。
なんとかしなければ、この男たちから千鶴を引き離さなければならない。
この場に居続ければ、千鶴が【あの記憶】を思い出してしまうかもしれない。
それだけはどうしても避けたいと思っていれば、風間千景がゆっくりと口を開いた。
「……言っておくが、おまえらを連れて行くのに同意など要らぬ。女鬼は貴重だ。共に来いーー」
直ぐ目の前に風間千景が立っていた。
音もなく近付いて来たことに目を見張る。