第6章 宵闇【土方歳三編】
私の言葉に、土方さんは眉間に皺を寄せながら不機嫌そうに顔をゆがませた。
「何を企んでやがるんだ、あの狐は……」
「……狐」
確かに少し狐に似ているかもしれない。
そう思っていれば、土方さんは小さく舌打ちしてから私に声をかけた。
「いいか、絶対に伊東と二人っきりなるな。それと、変なことを持ちかけられた、俺に即報告するように。分かったな?」
「わ、分かりました……」
土方さんは苛立ちを表情に滲みさせながら、背中を見せてゆっくりと歩き出した。
だが、何かを思い出したかのように足を止めると振り向く。
「あとで、茶を部屋に持って来てくれ」
「はい!直ぐに持っていきますね!」
「慌てて転けるんじゃねえぞ」
私の返事に、土方さんは苦笑いを浮かべてから歩き出す。
その背中を見送りながら、私は箒を直してから直ぐに勝手場へと急ぐのであった。
❈*❈*❈*❈*❈*❈*❈
徳川家康公の頃より、将軍上洛の際に宿舎の役割を果たすために建造された二条の城。
そして、この城には先程何事もなく、辿り着いた十四代将軍・徳川家茂公がおられる。
道中警護から、そのまま城周辺の警護をまわって一刻あまりが経っていた。
近藤さんと永倉さんに井上さんは、幕府のお偉い方々と城の中できっとご挨拶をされているだろう。
そう思いながら、私は駆け足で城の中を駆けていた。
「千鶴は、今九番組の方に伝達中かな……。私は、原田さん達の方に伝達しなきゃ」
私と千鶴は、隊士の方々に交代を告げたり、知らせを伝えたりする役割だ。
二人でそれぞれ、警護されている組へと伝達をしながら走り回っている最中である。
「原田さん、伝達です」
「お、千尋。ご苦労さん」
「原田さんもご苦労さまです。局長は城内での挨拶のため、皆さんは引き続き警護をお願いします」
「了解。伝達、確かに聞いたぜ」
原田さんは私の伝達に頷いてから、組の方々に私が告げた伝達を伝えていた。
「では、私はこれで。引き続き頑張ってくださいね」
「おう。千尋も頑張れよ」
彼の言葉に頷いてから、頭を下げると私は千鶴と合流する為にまた走り出した。
走りながら、少しだけ千鶴の事が心配になる。
(……三木さんに変に絡まれてなければいいけど)
三木さんはたまにだけど、私と千鶴に絡む事があるから心配だった。