第6章 宵闇【土方歳三編】
何故、そんなにも私に声をかけるのだろう。
千鶴にはそこまで声をかけないのに……と思っていれば、近藤さんが伊東さんの言葉に頷いていた。
「君たちも今や、新選組の一員と言っても過言ではない。是非参加してくれ」
伊東さんの言葉には複雑な気分だったが、近藤さんの言葉には嬉しい気持ちが芽生える。
だけども、私たちが参加してもいいのだろうかとな悩んでしまった。
「千尋、どうする?」
「えっと……」
私たちが悩んでいれば、ふいに沖田さんが私たちを見ながらにやにやとしているのに気が付く。
大抵、あの人がにやにやしている時は嫌な予感がするけど、大丈夫なのかなと不安になった。
「まあ、行ってもいいんじゃない?そんなに危険もなさそうだしね」
「長州藩士は京に出入りできねえから、斬った張ったの騒ぎにはならねえだろうし」
沖田さんと平助君の言葉に、私たちは顔を見合わせた。
安全なら千鶴と共に参加しても大丈夫かもしれない、だけども本当に良いのだろうか。
だけど、参加しても良いかもしれない。
最近の千鶴は、父様の手掛かりがなかなか掴めずに精神的に参っている様子があった。
それに二条城は有名な場所でもあるから、少しは息抜きになるかもしれない。
「千鶴、参加してもいいと思うよ……。沖田さんの言う通り、危険もなさそうだから」
「……そうだね。では、私たちも行きます。同行させてください」
「お願いします」
私たちの言葉に、土方さんは小さく頷いた。
「よし、わかった。おまえ達には、伝令や使いっ走りを頼むことになると思うがな。こき使ってやるから、覚悟しとけ」
その後、家茂公の警護についての話し合いは終わり、私は中庭の掃除をする為に箒を手に持って境内へと向かっていた。
「まさか、私も警護に同行する事になるなんて……」
今までなら思いもしなかった事だ。
まず、二条城に入れるなんてそうそうないし、家茂公の警護もまず滅多に関わることはできない。
落ちている葉っぱたちを箒で集めている時だった。
後ろから足音が聞こえたので、誰なのだろうと思いながら振り向く。
「こんにちは、千尋君」
「伊東さん……。こんにちは、どうかされたのですか?」
私の背後には伊東さんがいて、笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてきていた。