第6章 宵闇【土方歳三編】
「やれやれ。攘夷って言葉も、君たちに使われるんじゃ可哀想だよ」
沖田さんは浪士達へと言葉を投げた。
すると、浪士達が一斉に沖田さんへと目線を向けると顔を強ばらせていく。
「その羽織ーー新選組か!?」
「知ってるなら話が早いなあ。……どうする?」
唇に三日月を浮かべるように微笑むと、沖田さんはゆっくりと手を伸ばして刀の柄へと触れる。
その様子に浪士達の表情が更に強ばったのがわかった。
沖田さんは何時も笑顔を浮かべている。
だけど、こういう時の笑顔は圧があって恐ろしいものを感じさせるのだ。
そんな沖田さんに怖気付いたのか、浪士の一人が悔しげそうに悪態を吐く。
「くそっ、幕府の犬が……!」
「…………。いいから、とっとと失せろって」
平助君も現れると、浪士達は自分達が不利だと判断したのだろう。
捨て台詞を吐くと逃げるように去っていった。
「貴様ら、覚えておれ!」
逃げ足が早いことで……。
私は逃げ去っていく浪士達の背中を見ながら、ため息を吐いた。
「……ったく、オレたちを見てとっとと逃げ出すぐらいなら、最初からあんな真似するなっての。ていうか!千尋、あぶねえだろ!?そう容易に近付こうとするんじゃねえよ!」
「あ、ご……ごめんなさい」
つい、無意識に足が動いてしまっていた。
私が平助君にお叱り言葉を受けていると、千鶴が少し戸惑ったように沖田さんへと声をかけている。
「あの……つ、捕まえなくてもいいんですか?」
「どんな罪で?君って意外と過激だなあ」
千鶴が沖田さんの言葉に詰まり、私は平助君に小言を言われている時だった。
「あの……。助けて下さって、ありがとうございました。私、南雲薫と申します」
「…………え」
先程、沖田さんが助けた女性が名乗った瞬間、私は動きを止めて息を飲んだ。
目を見開かせて、その女性を唖然と見つめる。
「南雲……薫……」
彼女が名乗った名前を言葉で呟いていれば、沖田さんが不意に千鶴の腕を掴んで【南雲薫】という女性の横に並べていた。
「ーーお、沖田さん!?」
「いいから。この子の横に立って」
「え……?」
沖田さんが、千鶴を彼女の隣に立たせれば、瓜二つとも言える顔が並ぶ。
その光景に私の心臓が早く鼓動を鳴らしだす。
「あ、あの……、沖田さん?」
「やっぱり……よく似てるね、二人とも」