第6章 宵闇【土方歳三編】
沖田さんの言う通り、近藤さんは家茂公の話をよくされていた。
その時の近藤さんはまるで少年のように目を輝かせていて、熱く語っていたのを思い出す。
「そうなんですか……。覚えがめでたくなるといいですね。ね?平助君」
千鶴が声をかければ、平助君はなんとも複雑そうな表情を浮かべていた。
そして、相変わらず歯切れ悪く言葉を発した。
「あー、うん……。まあ、近藤さんはそうだろうな……」
「……平助君」
何時もの平助君と様子が違う。
彼の様子を心配していた時、突然沖田さんが咳き込み出した。
「……けほっ……こほ」
「沖田さん……?大丈夫ですか?」
「咳されていますけど……大丈夫ですか?」
「平気だよ。ちょっと風邪を引いちゃったみたい」
「そうなんですか……気を付けてくださいね。風邪にいい薬がありますから、屯所に戻ったらお出しします」
「今日は、風邪に良い夕餉を作りますね」
「そう?ありがとう。君たちでも、ごくたまに役に立つことがあるんだね」
なんだか余計な言葉を言われた。
沖田さんの言葉に少しだけ、怒りの感情が湧き出したので、夕餉に葱を出そうかと思った時だ。
「……ん?」
「ん?」
「どうしたんです?」
沖田さんは何処かへと視線を向けて、少しだけ眉を寄せていた。
どうしたのだろうと、彼の視線を辿るように目線を動かせば、浪人達が声を粗げている姿が見える。
「おい小娘!断るとはどういう了見だ!?」
「やめてください、離してっ!」
「民草のために日々攘夷を論ずる我ら志士に、酌の一つや二つ、自分からするのが当然であろうが!」
そこには、三人の浪士達に絡まている女性がいた。
嫌がっている女性の手を掴み、なにやら揉めている様子が分かる。
京に来てから、ああいうのはよく見るようになった。
江戸でも何度かその場面を見ることはあったが、何故浪士達は自分たちが武士だからと言って、女性に無理矢理お酌をさせようとするのだろう。
(腹が、立つ……)
自然と足が、彼女たちの方へと向かう。
すると、後ろで千鶴が慌てたように声を出した。
「千尋!?沖田さん、平助君……!」
「わかってるって!千尋、オレがいくから、おまえは千鶴とここで待ってろーー」
その時、腕を掴まれて驚いて振り向けば沖田さんの姿があった。
彼は、私を後ろにすると浪士達に近づく。