第6章 宵闇【土方歳三編】
「似て……る……?」
「そっかぁ?オレは全然似てないと思うけどなぁ」
「いや、似てるよ。きっと、この子が女装したら、そっくりになると思うなあ」
私は、南雲薫と名乗った女性と千鶴を交互に見ながら唇を震わせる。
だけど、すぐに私は首を横に振りながら地面へと視線を落とした。
(違う……【あの子】は、女の子じゃない。だけど、だけど……)
私が知っている【あの子】と同じ顔と同じ名前。
だけど、苗字は知らないものだし性別がなによりも違うのだ。
そう自分に言い聞かせるように、心の中で呟いていれば、南雲さんが口を開く。
「……沖田さん。この方、困ってらっしゃいますよ」
「あ、えっと……」
「きちんとお礼をしたのですけれど、今は所用がありまして。……ご無礼、ご容赦くださいね。このご恩はまたいずれ。……新選組の沖田総司さん」
南雲さんは頭を下げると、ゆっくりと歩き出して雑踏に紛れて見えなくなってしまった。
彼女が消えた所を見ながら、私はただ動きを止めているだけ。
「おいおい。ありゃ、総司に気でもあるんじゃねえの?」
「今のがそう見えたんなら、平助は一生、左之さんには勝てないよね」
「ど、どういう意味だよ!?」
「そういえばさ、千尋ちゃんと千鶴ちゃんって双子なのに似てないよね」
その言葉に、私は息を飲む。
だけれども平然を装って沖田さんに微笑んだ。
「よく、言われます。でも、双子でも似ていない人達もいますから……」
「ふーん……。まあ、そうだよね。兄弟や姉妹だからって似てない子もいるからね」
私は、沖田さんの方向を見ない。
ずっと、南雲さんが消え去った方向ばかり視線を向けていた。
「おーい!千鶴に千尋〜!そろそろ屯所に戻るぞー!」
「あ、はいっ!千尋、行こう」
「……うん」
眉間に皺を寄せながら、私は先に歩いてしまっていた平助君と沖田さんを追いかけて歩き出した。
何故か不安になってきた心と、溢れてきている懐かしい思いを抱えながら、私は千鶴へと視線を向けた。
「ん?どうしたの、千尋」
「……ううん。私と千鶴、やっぱり似てないよね」
「そうかな?でも、ほら父様は言ってたじゃない。私と千尋は性格が似ているって。頑固な所とか優しいところとか」
「そう、かなあ。千鶴の方が優しいけどね」
私は、千鶴とは全然似てないよ……。