第6章 宵闇【土方歳三編】
(本当に、あの夜に見た彼らと同じ存在なのか疑ってしまうほど、穏やか……)
普通の人間だと思ってしまうほどに穏やか。
だけども、山南さんは事情を知らない隊士の方々からは隠れるように暮らしていた。
そして、太陽の光を嫌がり避けている状態。
普通の人間ではないのだ。
その現実がひしひしと伝わってきていれば、日が少しだけ傾いて、山南さんの髪に陽光が触れたその時だ。
(……あ)
一瞬、何故かわからないけれども、山南さんの髪が雪のように白い白髪で、瞳は血に染められたように赤く見えてしまった。
「どうかしましたか?お二人とも、幽霊でも見るような目つきで人を見るのは、良いことと思えませんが」
「あ、いえ、なんでもないです!」
「すみませんでした!」
何故、一瞬だけ、山南さんがあんな風に見えてしまったのか。
そして、どうやら千鶴も同じものが見えていたようで、私たちは顔を見合わせながら汗を浮かべていた。
(見間違いだよね……)
初めて会った山南さんと変わらない姿。
だけども、私と千鶴の目の前にいる彼は、あの夜に出会った彼らと同じ存在。
その事に不安を抱いてしまっていた。
「では、私は部屋に戻ります。呼びに来て下さりありがとうございました、雪村君たち」
穏やかに微笑む山南さんを見送った私は、隣で彼の背中を見送っていた千鶴に声をかけた。
「一瞬、あの夜に見た彼らと同じ姿をした山南さんが見えた……」
「私も、見えた……」
恐怖と不安、そして何とも言えない感情が心の中で渦巻いていた。
とある昼下がり近く。
寄せては返す人の波を、隊服を来た平助君と共に千鶴と通り過ぎていった。
京の大通りは何時も賑わっていた。
江戸も賑わうことはあるけれども、京の方が人が多いのかもしれない。
「そういえば、こんな風に平助君と巡察に出るのも久し振りだね」
「そういえば、そうだね。本当に久しぶり」
「ん?ああ、そうかもな。オレ、長いこと江戸に行ってたし。オレの留守中、どうだった?新八っつぁんとか左之さんにいじめられたりしなかったか?」
「大丈夫。皆、気を遣ってくれたから」
「……たまに、沖田さんが意地悪してくることはあったかな」
「……そっか。ならいいけど……いや、よくねえか。総司の奴は相変わらずだなあ……。あ、親父さんの行方は、どうなんだ?手掛かりとか、見つかったか?」