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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第6章 宵闇【土方歳三編】


「千鶴……部屋に戻ろうか」
「うん……」

部屋を目指しながら歩いている最中は、山南さんのことが頭を埋めつくしていた。
彼が無事だったのは正直嬉しいけれど、懸念はいくつもある。

父が私たちに知らせずに行っていた、恐ろしいとも言える研究。
それが化け物とも呼べる存在を生み出すものだったということが、私には信じられなかった。

(……でも何故、父様が?それにあの時、父様は私に言った。【知らなくていいよ】ではなく、【まだ、知らなくていいよ】と)

父様の【まだ】という言葉に引っ掛かりながらも、私と千鶴はお互いの部屋へと戻り、眠りについたのだった。


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ー慶応元年・閏五月ー

元治二年から慶応元年へと年号が変わり、冬が過ぎ去り春も過ぎ去った頃。
新選組は、八木邸と前川邸から西本願寺へと屯所を移転していた。
そして西本願寺に来てから、もう三ヶ月が過ぎていた。

「前の所より、ずいぶん広くなったけど……最初は迷ったよね、千尋も私も」
「そうだね……。ここ、広すぎるから」

来たばかりの時は、私も千鶴も迷ってしまっていた。
だけど、三ヶ月も経てば迷うこともなく、私たちは境内の中を歩けるようになっている。

境内へと足を踏み込み、二人で道を曲がって更に境内を進んでいく。
そうすると、建物の薄暗い一角に太陽の日差しを避けるように腰掛けた人の姿を見つけて、千鶴が声をかけた。

「山南さん。食事の準備ができました」
「ああ、君たちでしたか。ありがとう」

雪の季節が去り、桜の花が散って、秋の季節が見えてきた頃。
境内の片隅で微笑む山南さんに、私と千鶴は笑顔を返した。

「だいぶ、風も暖かくなってきましたね」
「ええ。……まあ、今の私には、風より日差しの強さのほうが癇に障りますがね」
「……そうですか?」
「よければ、日除けになるものを持ってきましょうか?」

今日の太陽の日差しは、夏の季節ほど強くない。
だけれども、あの【薬】を飲んだ山南さんには眩しく感じてしまうらしい。

「いいえ、大丈夫ですよ、千尋君。お気遣いありがとうございます」

あの【薬】を飲んだ日。
山南さんは、あの夜に私たちが見た、白髪に真っ赤な血に染まったような瞳を持つ者となった。
だけれども、山南さんは彼らとは違って穏やかな微笑みを浮かべている。
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