第6章 宵闇【土方歳三編】
「これから私は【薬】の成功例として、羅刹を束ねていこうと思っています」
「山南さん、それ、本気出言ってるのか!?あんた、自分が何を言ってるのか、わかってるのかよ!?」
彼の【死んだことにすればいい】という言葉に、永倉さんは声を荒げた。
まるで、この場にいる幹部の方々の言葉を代表するかのように。
だけれども、山南さんは永倉さんの言葉を聞くと静かに瞼を閉じる。
そして、怪我をする前の穏やかな頃のように言葉を紡ぐ。
「わかっていますとも。……永倉君、君こそ忘れたのですか?我々は【薬】の存在を伏せるよう、幕府から命じられているのですよ。……私が死んだことにすれば、今までのように【薬】の存在を隠し通すことができる。それに、もし【薬】の持つ副作用を消すことができるのだとすればーー。それを使わない手は、ないでしょう?」
彼の言葉に、広間には静けさが広がっていた。
そんな彼の言葉を聞いて、私は疑問を抱いてしまう。
自分を死んだことにする程、【薬】の実験は大事なのだろうかと……。
「【薬】の実験は、幕府からのお達しでもあるしな……」
近藤さんの言葉が、静けさを消し去った。
「……そうするしかない、か」
「まあ、山南さんが自分で選んだ道ですし、止めたって聞く人じゃないですよね」
「……よくわかっていますね。その通りですよ」
彼らの会話を聞いていた土方さんは、苦いものを目元に浮かべながら言葉を漏らした。
「……屯所移転の話、冗談じゃ済まされなくなったな。山南さんを伊東派の目から隠すには、広い屯所が必要だ。ここじゃ狭過ぎる」
「……同意します。【薬】の研究を続けるのであれば尚のこと、移転を急ぐべきかと」
「よし、ろくに寝てねえとこ悪いが、話し合いを始めさせてもらうぜ。雪村たち、おまえらは部屋に戻ってろ。昨晩、ろくに寝てねえだろ」
「……え」
ろくに寝ていないのは皆さんだって同じ。
だけども、屯所移転の話し合いに私たちが参加しても役には立たないだろう。
私は千鶴と顔を見合わせてから頷きあった。
「……はい、わかりました。それじゃ失礼します」
「失礼します……」
幹部の方々に一礼すると、私と千鶴は広間から退去する。
すると、やはりろくに眠っていたなかったせいなのか、くらりと目眩に近い眠気が襲ってきた。
緊張が解けたせいもあるかもしれない……。