第6章 宵闇【土方歳三編】
「山南さん……!」
千鶴は驚愕した表情で彼の名前を呼べば、山南さんは困ったように笑うだけだった。
「……そんな、化け物を見るような目で見られても困りますよ」
「山南さん!……起きてていいのかい?」
「少し、けだるいですがね。これも【薬】の副作用でしょう。……あの【薬】を飲んでしまうと、昼間動くことが困難になりますから」
顔色は多少ではあるが青ざめている。
本当にけだるそうな表情もしているけれど、起きるのに支障はきたさないみたい。
だけど、昼間に動くことが困難というのはこれからの生活では困るのでは……。
そう思っていれば、山南さんは静かに囁くように言葉を呟いた。
「私はもう、人ではありません」
その言葉は酷く途方もない重さを持っていた。
彼の【人ではない】という言葉に、幹部の方々も千鶴も何とも言えない表情を浮かべる。
だが、近藤さんは嬉しそうに声を震わせて彼に声をかけた。
「……いや、山南君。君が生きていてくれて良かった。我々は、それだけで充分だとも……!」
近藤さんは山南さんの肩を掴むと、嬉しそうに目尻に涙を浮かべていた。
本当に、山南さんが生きている事に喜んでいれば、沖田さんが山南さんに質問を投げかける。
「……それで、腕の方はどうなんです?治ったんですか?」
「まだ、本調子ではありませんからね、自分でもよくわからないのですが……」
山南さんはゆっくりと、動かなかったはずの左腕を持ち上げると、手のひらを閉じたり開いたりと動かしていた。
その様子を見れば、どうやら動かなかった左腕は治っているみたい。
「……治っているようですね。少なくとも、不便がない程度には」
喜んでいいのか、どうなのか分からなかった。
山南さんは左腕の事を気にしていたから、治ったことを喜んだ方がいいのかもしれない。
でも、左腕を治す為に彼は……。
「……あの薬を飲んだってことは、昼間、動けねえようになっちまったんだろ?それなのに、隊務に参加なんてできるのか?」
原田さんの言葉に、山南さんは事も無げに言った。
「解決策は、あります。私が死んだことにすればいい」
「なっ……!」
「そんな……死んだことにって」
あまりにも驚く言葉に、原田さんは思わず声をあげて、私もつい言葉を発してしまった。
だけど、山南さんはただ穏やかに微笑みを浮かべているだけ。