第1章 始まり【共通物語】
「はい。昨晩、京の都を夜間巡察中に浮浪の浪士と遭遇。相手が刀を抜いたため、斬り合いとなりました。一部の隊士らが浪士を無力化しましたが、その折、彼らが【失敗】した様子をこの者たちに目撃されています」
失敗というのは、あの狂ったように浪士たちを滅多切りにしていた事なのだろうか。
そう思いながら説明をしていた斎藤さんへと目を向ければ、視線がかち合ってしまう。
見た、と正直に言ってしまえばもしかしたら危険かもしれない。
何せ昨夜、沖田さんが『見ちゃったんですよ』や『殺していれば手間が省けた』と言っていたのだ。
見たとは絶対に言えない状況だ。
「私は、私たちは何も見てません」
ならば、こうとしか言えないだろう。
千鶴もそう判断したのか、慌てて私の言葉に続けた。
「ーーわ、私。私たち何も見てません!」
だが、土方さんは厳しい表情のままで斎藤さんは無表情。
だが沖田さんだけはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたままだ。
「なあ。おまえら、本当に何も見てないのか?」
「見てません」
「はい、見てません」
「ふーん……。見てないんならいいんだけどさ」
「あれ?総司の話じゃ、おまえが隊士どもを助けてくれたって話だったが……」
「ち、違います!」
「助けて……?私達は助けていませんよ」
冷や汗が背中を伝う。
そして、沖田さんの方へと視線を向ければ相変わらず何を考えているのか分からない笑顔のまま。
「私たちはその浪士たちから逃げていて……そこに新選組の人たちが来て……。だから、私たちが助けてもらったかたちです」
「ーーっ!千鶴!!」
それは言ったらダメだ。
それを言ったは、私たちは『あの人たち』を見たことになってしまう。
「つまり、隊士どもが浪士を斬り殺してる場面はしっかり見たってわけだな?」
「……千鶴」
千鶴は慌ててしまったのだろう。
それに根が素直な彼女に嘘なんて言えないだろうし、まず私が止めるのが遅かった。
「つまり最初から最後まで、一部始終を見てたってことか……。おまえ、根が素直なんだろうな。それ自体は悪いことじゃないんだろうが……。で、そっちの奴は賢いけど、おまえも根が素直なんだろうな。なんとか隠そうとしてたけど、顔に出てたぜ」
父様に、『千鶴と千尋は直ぐに顔に出るからね。嘘は付けないよ』と、思わず言われた事を思い出してしまった。