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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第6章 宵闇【土方歳三編】


私の言葉に、土方さんは目を細めるだけだった。
だけど、私の言葉を制することなく聞いてくれる。

「江戸の家……父様の診療所で、たくさんの患者さんを見てきました。私は父のようなちゃんとした医術の心得はありません。ですが、父の傍で見てきた上で言います。山南さんは、大丈夫です。言うでしょう?病気は気から来るって。だから、気の持ちようが大切なんです」

よく、父様は言っていた。
病気の患者さんに『強く心を持ちなさい』と。
それに、患者さんの家族に幹部さんを心の底から信じなさいとも言っていた。

「山南さんは強い方です。……それに、皆さんが山南さんは大丈夫だと、元気になると信じていれば大丈夫です。皆さんが信じていれば……きっと」

言葉が上手く出てこない。
その事をもどかしく感じていれば、土方さんが小さく眉を下げながら微笑んだ。

「……ありがとよ」
「……え」
「ったく、どうして新選組の副長が、こんな年下の娘に励まされてるんだか」

土方さんの瞳には覇気が戻っていた。
何時もの、覇気があって皆を導いていく土方さんの瞳だ。

「だが……、そうだよな。山南さんは、腕の怪我を治すためにあの【薬】を飲んだんだ。あの人が元気になってくれるよう、信じるしかねえな」
「……はい」


長い夜が明けた。
新選組の幹部の方々は皆、広間に集まっていて、どこか暗い表情をしている。
すると、広間のふすまが開いて井上さんが姿を見せた。

「……皆、安心してくれ。峠は越えたようだよ」

井上さんの、その言葉に場の緊張がやや緩んだ気がした。

「で、どうなんだ?山南さんの様子は」
「今は、まだ寝てる。静かなものだよ」
「今までの隊士たちみてえになっちまってるのか?それとも……」

不安げに永倉さんが問いかけると、井上さんは静かに首を横に振った。

「……確かなことは、目を覚ますまでわからんね。見た目は、昨日までと変わらないんだが」

そんな時だった。
不意にふすまが開いて、広間に伊東さんが姿を現したのである。

「おはようございます、皆さん。ご機嫌いかがかしら?」
「うげっ、伊東さん……」
「【うげ】とはご挨拶ですのね。皆さん、お顔の色がすぐれない様子ですけど」
「そりゃ、朝っぱらからあんたの顔を見たせいに決まってるだろうが」
「まあ、永倉君ったら。冗談がお上手ですこと」
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