第6章 宵闇【土方歳三編】
それから、斎藤さんや、原田さんに永倉さんは土方さんに命じられた場所へと移動した。
その際に千鶴は、少しだけ外の空気が吸いたいからと原田さんに着いて行ったので、広間には私と土方さんだけが残っている。
(土方さんと、二人っきり……)
先程から土方さんは一言も言葉を発しない。
そのせいか居心地が凄く悪くて、私はただ床へと視線を落としているだけだった。
ちらりと、私は土方さんの方へと視線を向ける。
彼は、眉間に皺を寄せていて目元に陰が差しているのが分かった。
きっと、山南さんが心配なんだろうと思っていれば、土方さんが静かに口を開く。
「おまえは、腐っちまってる姿しか知らねえだろうが……山南さんは元々、才もあり腕も立つ人だ。大局も見えるし、頭も回る。つまんねえことにこだわって意地張ってばかりの俺の手綱を、うまく取ってくれてな」
土方さんは懐かしむように、外へと視線を向けていた。
そして苦笑を浮かべると、外へと向けていた視線を私へと向ける。
「あの人がいなきゃ、今の新選組はあり得なかった。……俺にとっちゃ、兄貴みてえなもんだったんだ」
「土方さんは、山南さんを尊敬されているんですね……それに、とても大切に思っていらっしゃる」
「ま、言葉にすると安っぽくなるがな」
「そんな事、無いと思いますよ……。土方さんの言葉からは、山南さんを凄く大切に思っているのが伝わってきますから」
「……そうか。おまえは、安っぽく聞こえねえんだな」
私の言葉に土方さんは苦笑を浮かべるだけ。
今、彼は昔馴染みの人が生きるか死ぬかの瀬戸際に置かれている状態。
きっと、内心は凄く不安でどうしようもないのに……。
(立場上なのか、土方さんの性格だからなのか……。それを表に出そうとしないんだ)
恐らく、不安を紛らわせるために思い出話をしているんだと感じた。
「あの【薬】をすてちまわなかったのも、山南さんの腕を治すためだった。俺たちは、山南さんが必要なんだ。……あの人を失うわけにはいかねえんだよ」
「土方さん……」
彼なりに、懸命に普段と変わらない態度を取ろうとしているんだろう。
でも、弱りきっているのが分かる……彼みたいな人は、江戸にいた時に、家の診療所で見た事があった。
「……きっと、大丈夫です。山南さんは大丈夫ですよ」
「根拠はあるのか?」
「根拠はちゃんとあります」