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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第6章 宵闇【土方歳三編】


「……大丈夫か、千鶴と千尋。顔色悪いぜ」
「だ、大丈夫です……」
「……平気です」

嘘だ、平気なんかじゃない。
あんな話を聞かされて、父様が人が狂う薬を実験していたなんて聞かされて平気ではいられない。
体が一気に冷たくなった気がした。

「無理すんな。こんな話を聞かされりゃ、気分も悪くなるよな」
「……おしゃべりはその辺にしとけ。今は、山南さんのことが先だろうが」
「つっても、どうするんだ?山南さん、死にかけてるじゃねえか」
「あの【薬】は、ここに持ち込まれたばかりの頃とは違う。……まだ、狂うと決まったわけじゃねえ。【薬】が効いてるんなら、どんな怪我でも治る筈だからな」

土方さんの低く抑えたその声音は、まるで己に言い聞かせてるように思えた。
しばらくすると、土方さんは目を細くしながら近藤さんへと声をかける。

「近藤さん。あんたは山南さんの様子を見てきてくれるか。……今夜が、生きるか死ぬか狂うかの瀬戸際だろうからな」
「……うむ、行ってこよう。確か、彼の部屋には総司もいるのだったな」

近藤さんは重々しく頷くと、ゆっくりと立ち上がって広間を出ると、山南さんの部屋へと向かった。
沖田さんの姿が無いと思っていたけれど、彼はどうやら山南さんの傍にいるみたい。

「……山南さんの部屋へは誰も近づけるな。特に、伊東派の連中はな」
「ああ、わかってる」
「新八。前川邸の様子を見てきてくれるか」
「わかった」

永倉さんも立ち上がると、広間から立ち去ろうとしたけれども、その前に私と千鶴へと視線を送った。
その眼差しは、私たちがこの新選組に来たばかりの頃と似ている。

警戒されているんだ。
私たちが、【薬】について外に漏らさないかどうかを……。

「斎藤は、中庭で待機しろ。伊東一派の警戒と牽制を頼む」
「……御意」

幹部の方々に指示を出した土方さんは、改めて私たちに視線を向けてきた。

「雪村たち。お前らも、今夜は幹部のそばにいろ」
「……はい」
「わかりました」

私たちを案じている言葉じゃない。
私たちが、この場から逃げないように警戒するために、そして監視する為の言葉だって分かる。
すると、原田さんは私たちに言葉をかけてきた。

「裏の南部邸には、絶対に行くんじゃねえぞ。連中、夜は気が立ってるからな」
「……はい」

どうせ、そんな場所に行くことはないと思う。
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