第6章 宵闇【土方歳三編】
「高官が……」
「ああ。何でも、西洋との交易で手に入れた物だと聞かされている」
その薬が一体どんなのかは分からない。
だけども、幕府の高官が持ってきたというものが何故新選組に持ち込まれたのだろう。
知りたい。
だけども、これ以上踏み込まない方が良いのではないかという考えが頭の中で回っていく。
そんな私の気持ちを知ってなのか、知らないのか斎藤さんが説明を始めてくれた。
「人間の筋力と自然治癒能力を、爆発的に高める西洋渡来の薬……。あれを飲んだ者は、野生の獣と渡り合うことも不可能ではなくなる。致命傷でなければ、傷はたちどころに塞がる。つまりーー首を落とされるか心臓を討たれぬ限り、戦い続けることができるのだ」
ふと、ある事を思い出した。
私たちがこの屯所に来るきっかけを作った、あの化け物達を。
もしかして、あの者たちはその薬を飲んだのかもしれないと思いながら、斎藤さんの説明に耳を傾ける。
「……但し、あの薬には甚大な副作用がある」
「副作用……?」
「あれを飲んだ人間は狂気に駆られ、人の血なしでは生きることさえできなくなるのだ。……新選組の隊士を実験台に、【薬】の改良を進めていたのが綱道さんだ」
「父、が……」
今更、思い出した事があった。
父様が京に向かう少し前の頃、夜遅くまでなにかを実験していたのを見かけた事がある。
その際に、【何をしているの?】と聞いた時に父様は私に【まだ、知らなくていいんだよ】と優しく笑いかけてきた。
あれは、もしかして……。
私はそう思いながら、眉間に皺を寄せてから視線を床へと落とした。
(でも、なぜ……何故父様はこんな実験を新選組で行っていたんだろう?)
そして、私が先程まで考えていたこと。
私と千鶴があの夜見てしまった、あの化け物たちがやはりその【薬】と関わっているという事が分かった。
「私たちが、あの夜見たのはその薬を飲んだ隊士の方々なんですよね……?」
「……あ」
私の言葉に、千鶴が目を見開かせた。
どうやら千鶴も気付いたらしく、斎藤さんは私と千鶴を見ると静かに頷く。
「……薬を飲んだ隊士たちは、南部邸にいる。八木邸では、人目につくからな。血に触れぬ限り、正気を失うことはない。我々にとっては御しやすい者たちだ」
やっぱりそうなんだ。
私たちが見たのは、やはりその【薬】を飲んで狂った人たちなんだ。