第6章 宵闇【土方歳三編】
どうしよう。
私は冷や汗を浮かべながら、どうするべきかと悩んでいた時だった。
近藤さんが土方さんへと声をかける。
「……トシ。そろそろ彼女たちにも、聞いてもらった方がいいんじゃないか?彼女たちは、綱道さんの娘たちだ。知る権利はあるだろう」
私と千鶴は、不意に近藤さんの口から父様の名前が飛び出してきて驚いた。
何故、この場面で父の名前が出てきたのかと、目を見開かせてしまう。
もしかして、父様が例の【薬】に関わっているのだろうか。
そう考えていれば、土方さんは苦々しげに顔を歪めてから、諦めるように長い溜息を吐いた。
「……先に言っておく。おまえ達は、新選組に必要ねえ人間たちだ。綱道さんを捜す役には立つかもしれねえが、おまえ達が居なくてもどうってことはねえ。もしおかしな真似をすれば、即座に殺す。……そいつを、てめえらの肝にしっかり銘じてから話を聞け」
冷りとした感覚が首筋に走り、思わず息を飲む。
恐らく、土方さんの言葉は本気だろう……私たちはただ、父様を捜すのに役に立つからとここに留め置かれているだけ。
だけど、人捜しならば私たちがいなくても平気だ。
なにせ新選組には、監察方という役職があるのだから、私たちに頼らなくても平気。
だから、私たちは殺されるかもしれない……そう思い、私は思わず言葉を漏らした。
「私たち……、殺されるのでしょうか?もし、そうならば、私は千鶴だけは死なせるわけにはいかないので……」
なんとしてでも、千鶴を生かすために【この人たちを殺すか、殺されるかを覚悟しなきゃいけない】と思った時だった。
土方さんは、面倒くさそうに目を細めながら私に言葉をかけてくる。
「……まだ殺さねえよ。もっとも、いつ死のうと困らねえがな。だから、変に殺気を出すんじゃねえ」
とりあえず、今は殺される心配は無いみたい。
その事に安堵しながら、咄嗟に刀へと伸ばしていた手をゆっくりと引っ込めた。
すると、近藤さんが困った表情をしながら私たちを見て説明を始める。
「……今までは君たちにも伏せていたのだが、綱道さんは元々ここで【薬】の研究をしていてな」
「それって……」
「今、皆さんが話されていた……山南さんが飲まれた薬のことでしょうか?」
私の問に、近藤さんは重々しい仕草で頷いた。
「……あの【薬】は元々、幕府の高官がここに持ち込んだものだ」