第6章 宵闇【土方歳三編】
しばらく廊下を歩けば、広間の方に明かりがついているのに気がついた。
明かりがあるということは、誰かが広間にいるという事なのだろうと思い、私たちは何が起きたのか聞こうと思い広間の方へと近付く。
広間に近付いた時、幹部の方々の話し声が聞こえた。
幹部の方達が集まっているということは、かなりの事が起きたのかもと思えば、近藤さんの声が聞こえてくる。
「まさか山南君が、自ら【薬】に手を出してしまうとは……」
「ったく、どいつもこいつも何してやがるんだ!山南さんから目を離すなって、あれだけ言ったじゃねえか!」
「……んなこと言われてもよ、【薬】を飲むとは思わねえだろ?普通。あれを管理してたのは山南さんだったから、【薬】を持っててもおかしくはねえし」
「小瓶一つぐらいなら、懐に隠し持ってても気づかなかっただろうしな。確かに、あの【薬】を使えば、腕は治るかもしれねえだろうがーー」
心臓が激しく鳴った。
これは、もしかして例の【薬】についての話かもしれない。
聞いてはいけない、忘れろと言われたあの【薬】の話だと気付いてしまう。
だけど、原田さんは私たちが居ることに気付かずに話を続けていた。
「……あれは、失敗作なんだろ?飲んだ連中も皆、結局は血に狂っちまった。ってことは、山南さんは……」
「山南総長は独自に、【薬】の改良を続けていたと聞きます。理性を保ったまま腕の傷を治す。その成功に、賭けたのでしょうがーー」
これは聞いてはいけないこと。
私は咄嗟に千鶴の耳を塞ぎながら、この場から居なくなろうとした時だった。
斎藤さんから衝撃的な言葉が聞こえてきたのだ。
「失敗を悟った山南総長は、総司の制止を聞かず自刃した、と」
「自刃……!?」
「っ、千鶴!」
私は慌てて千鶴の口を塞いだ。
だけど塞いだとて時すでに遅く、千鶴の叫びに近い言葉が聞こえた瞬間、静かになった。
そして、すぐ様にふすまが開いて、中から厳しい表情の土方さんが出てくる。
「……どうしてお前たちがここにいる?」
「あ……」
「っ……」
土方さんの鋭い眼差しに射抜かれて、私と千鶴は咄嗟に言葉が出てこない。
この視線は、彼らと出会ったばかりの時に感じた敵意が込められたもの。
聞いてはいけないのを、見てはいけない事を、知ってはいけないことを知った時。
彼らが、私たちを殺すべきかどうするかを考えている目。