第6章 宵闇【土方歳三編】
「え?薬を探す?」
夜も更けて、私は千鶴の部屋で寝るまでの時間を過ごしてた。
その際に、千鶴からある提案を持ちかけられたのである。
とある薬を探してみないかと……。
「うん。沖田さん達が言ってた薬があるでしょう?」
「あ……うん」
屯所に来てまだそんな日にちが経っていない頃。
山南さんが、大阪で怪我をされたという報告を聞いた時に沖田さんや永倉さん達が話していた【薬】の事を思い出した。
『薬でもなんでも使ってもらうしかないですね。山南さんも、納得してくれるんじゃないかなあ』
『総司……滅多なこと言うもんじゃねぇ。幹部が羅刹になってどうするんだよ?』
あの話は永倉さんから【忘れてほしい】と言われて、なるべく忘れようとしていた。
彼らが言っている薬は、新選組にとっては秘密であり、そしていわく付きみたいなのは、なんとなく察している。
「だけど、私たちは関わらない方がいいんじゃない?永倉さんにも、忘れろって言われてるじゃない……。でも、なんで急に薬なんかを調べようとしたの?」
「その薬があれば、山南さんの腕が治るのかなって。ほら、私たちは蘭方医の娘たちだから……新選組の皆さんよりは詳しいから、調べて処方したらと思って……」
「……でも、勝手なことをしたら、あらぬ誤解をされるかもしれない。だから、辞めておこう?」
「……うん」
千鶴は俯きながらも、薬を探すことは諦めてくれた。
私もあの薬が気になったし、もしかしたら山南さんの腕はその【薬】で治るかもしれないと考えたけれど、余計な事はしない方が得策だ。
夜中も近くなり、私は千鶴の部屋から自分の部屋に戻って寝る支度を始めていた。
だけど、障子戸の向こうが急に騒がしくなった事に気が付く。
「……なんだろう」
騒ぎは収まる事がなく、最初は気にしないようにしていたけれども、どうしても気になってしまった。
それと同時に、嫌な予感もする。
「ちょっと、様子を見るだけ……」
私は寝巻きから何時もの着物に着替えると、念の為にと刀を腰に差してから部屋を出た。
すると、千鶴も気になったのか部屋から出てきていた。
「千鶴……」
「あ、千尋も気になった……?」
「うん。これだけ、騒ぎが収まらないと気になるよね……。ちょっとだけ、様子を見に行こっか」
「うん」
私たちは騒ぎが聞こえる方へと足を運んでいく。