第6章 宵闇【土方歳三編】
山南さんの事をちゃんと知っているわけじゃない。
だけど、屯所に来たばかりの時は隊士の方々に慕われている姿をよく見ていた。
今ではその姿を見る事はない……。
「土方さん、伊東さんたちなんて適当な理由を付けてさっさと追い出しちゃってくださいよ。あの人たちが来てから僕、毎晩嫌な夢ばっかり見るんですよね」
「んなこと、できるわけねえだろうが。近藤さんは、すっかり伊東さんに心酔してるみてえだしな。伊東さんと一緒に入隊してきた連中も、そんな扱いをされりゃ黙っちゃいねえだろ」
「役に立たない人だなあ。無理を通すのが、鬼副長の役目でしょう?」
「んじゃ、てめえが副長やりゃいいだろうが。で、あいつらを追い出せ」
「あはは、嫌に決まってるじゃないですか。そんな面倒くさいの」
幹部の方々は、伊東さん達のことをあまり良く思っていない。
確かに性格は難があるっぽい人だし、よく嫌味っぽく聞こえる言葉を吐く所も見る。
そんな中、黙ったままでお茶を啜っている人がいた。
無言のまま、ただ静かに皆の様子を見ていたのは斎藤さんであり、千鶴はそんな斎藤さんに声をかける。
「あの……斎藤さんは、どう思ってらっしゃいますか?伊東さんたちが入隊したことについて……」
「……様々な考えを持つ者が属してこそ、隊というのは広がりを見せるものだ」
「それじゃーー」
「だが、無理に広げようとすると、内部から瓦解を始めることもある」
斎藤さんの発言はなんだか縁起が良くない。
私と千鶴は苦笑いをしながら、お茶をまた啜り始めた斎藤さんを見ていた。
伊東さん達が入ってから、新選組の人手不足は解消されたけれども、良いことばかりじゃないみたいだ。
幹部の方々にとって、伊東さん達の存在は頭痛の種みたい。
「さて、夕飯は昨日井上さんと買ってきたお魚を使おうかな」
夕日が傾いてきた時刻。
私は、夕餉の準備をする為に勝手場で昨日井上さんと購入してきた、さよりを使って夕餉を作ろうと考えていた。
「……そういえば、伊東さんたちは一緒に食べないよね」
新選組の幹部の方々は、たいていは一緒に広間で食事をされている。
だけど、伊東さんや三木さん達はご自身の部屋で食事をされていた。
皆さんとまだ仲が深まってないからか、それともご自身達から一線を引いているのか。
そう思いながら、私は夕餉の支度を始めた。