第6章 宵闇【土方歳三編】
「それだけで、気に入られるのでしょうか……」
ただ、食事について聞いただけで気に入られるものだろうかと首を捻る。
しかも食事を残されない、ちゃんと食べるというのは優しいのではと思っただけ。
何せ、最初にここで食事を作った際は残されたり【これ嫌い】と沖田さんが言ってみたり、武田さんは【味付けが好みでは無い】と言ったり色々あった。
なので、ただ純粋に【残さず食べる】という言葉が優しく感じてしまっただけ。
「おい、雪村妹。面倒臭いことになるから関わるなって言っただろうが……」
「す、すみません……。でも、流石に食事に関しては聞いた方がいいと思いまして」
「ま、あとは……千尋ちゃんを近藤さんみたいに丸め込んで、新選組の中で仲間を増やしていこうと思ってるんじゃない?今はまだ、この新選組の中で味方はあんまり居ないだろうし」
「……だろうな。たく、めんどくせえ」
土方さんは力なく項垂れると、床を見つめていた山南さんに声をかけた。
「……山南さん、あんな奴の言うことなんざ気にするんじゃねえぞ」
だけど、山南さんは土方さんの言葉に乾いた笑みをこぼしただけ。
そして小さくかぶりを振った。
「伊東さんは学識も高く、弁舌にすぐれ、剣の腕も確かな方ですよ。……優秀な参謀の入隊で、ついに総長はお役御免というわけですね」
「おい、山南さん……!」
山南さんは、土方さんをまるで振り切るように広間を出て行ってしまった。
彼が出ていくと、また広間は重い空気に閉ざされてしまい、残った幹部の方々はなんとも言えない表情を浮かべている。
「……山南さんも、気の毒にな。あの調子だから、近頃は、隊士連中にも避けられちまってる」
「えっ?避けられてるって、どうして……」
千鶴は驚いた表情をしていれば、原田さんは溜息を吐いた。
そして隣にいた永倉さんも、困ったようななんとも言えない表情を浮かべながら言葉を吐く。
「無理もねえだろ。どんな言葉をかけても全部、悪く取られちまうし。何を言っても皮肉と嫌味しか返ってこねえから、隊士たちも怯えちまって近付かねえんだよ」
「そんな……」
「……そういえば、前にお食事を運んだ際も少し皮肉を言われてしまいました」
「だろ?だから、それが嫌で隊士が逃げちまうんだよ」
永倉さんは溜息を吐いてから、天井を見上げてまた溜息を吐いていた。