第6章 宵闇【土方歳三編】
近藤さんと武田さん、そして伊東さんたちは広間から出ようとした。
その時、伊東さんは何かを思い出したかのように、広間の中へと視線を向けて微笑んだ。
彼のその視線は私へと向いている。
「雪村千尋君。あなたもよければ、一緒に話し合いに参加されるかしら?」
「……え!?あ、いや!私はただの小姓ですので……何もお役には立てないと思いますので、申し訳ないですが遠慮させていただきます」
「あら、そう?では、今日の炊事当番は貴方と聞いているので楽しみにしていますわね。それでは」
笑みを浮かべたまま、伊東さんは近藤さん達と共に広間を出ていく。
そして、残っていた三木さんも立ち上がるとふすまへと近付いた。
「……ふん」
冷笑を浮かべて、残る面々を見やってからそのまま広間へと出て行ってしまった。
そして、彼らの足音が聞こえなくなってから、沖田さんはうんざりとした表情を浮かべてから呟く。
「……まったく。誰なのさ?あんな人たちを連れてきたのは」
「犯人は、まだ江戸にいるだろ。……平助の野郎、帰ってきたらとっちめてやる」
「伊東さんは、尊攘派なんだろ?長州の奴らと同じ考えの奴が、よく新選組に入る気になったもんだな」
「尊皇攘夷だからって長州と同一視されるのは心外らしい。そもそも尊王とは……とか何とか、わけのわからねえことを抜かしてやがったんだよ」
土方さんは呆れたように溜息を吐いていた。
そういえば、伊東さんがこの屯所に来た当初は、近藤さんと土方さんと山南さんと伊東さんは話し合いをされていたけれど、土方さんは凄く疲れた顔して出てきたのを覚えている。
【尊王がなんだか、うるさいったらありゃしねえ】と呟きながら、かなり不機嫌そうにしていた。
伊東さんのお話にかなりうんざりされていたらしい。
「近藤さんも近藤さんで、あっさり丸め込まれやがって」
「近藤さんって、お人好しですからね。ああいう、口が上手くてお腹の中が真っ黒な人に騙されやすいんだよなあ」
「その伊東さんが参謀で、弟が九番組組長か……。面倒くさいことになったぜ。しかも、何故か千尋はあの伊東さんに気に入られてるしな」
「ねえ千尋ちゃん。なんであんな人に気に入られたの?」
「いや……えっと、その……伊東さんが来られたばかりの時に」
あれは、伊東さんが屯所に来られたばかりの時に遡る。