第6章 宵闇【土方歳三編】
「ーー伊東さん、今のはどういう意味だ」
それまで沈黙していた土方さんが、厳しい顔つきで、まるで敵を詰問するような声音で伊東さんに声をかける。
すると、伊東さんはそんな土方さんを見て、少しだけ驚いたように目を見開かせた。
「あんたが言うように、山南さんは優秀な論客だ。……けどな、剣客としてもこの新選組に必要な人間なんだよ!」
その言葉は、まぎれもない土方さんの本音だと思う。
だけど、その言葉に山南さんは眉を下げながら悔しげに左腕をさすった。
「ですが、私の腕は……」
気落ちしたように沈んだ声。
そんな彼の声に、土方さんは自分の言葉で山南さんをより落ち込ませた事に気付いて苦い表情になる。
そして、周りの幹部の方々も苦い表情やなんとも言えない表情を浮かべていた。
彼らが沈んだ気分になっている中、伊東さんは気にしていないような表情をしていた。
まるで、自分には関係ないと言わんばかりの。
「……ごめんあそばせ。私としたことが、失言でしたわ。山南さんは、皆さん方の大切なお仲間ですものね。仲がよろしくて結構なことですわ。……新たに入隊した隊士たちも、同じ気持ちでいてくれるといいのですけど」
含みのある伊東さんの言葉に、土方さんが更に目を剥いた。
そして、広間は険悪な雰囲気になってしまい沈黙が流れ続ける。
伊東さんと三木さんや武田さん以外の幹部の方々は、伊東さんへと鋭い目付きを向けていた。
(さっきまでの、和気あいあいとした空気からこんな空気になるなんて……)
隣に座っていた千鶴も、困ったような悲しげな表情で幹部の方々を見ている。
すると、嫌悪な雰囲気を取り繕うように近藤さんが声をあげた。
「とりあえず、屯所移転の件に関しては、もう少し話し合ってから決めるということで……。伊東さん、この後お付き合いを願えますかな?先程の件について、もう少し詳しい話をお聞きしたいので」
「ええ、喜んで」
二人の様子を見て、端に座っていた武田さんは慌てて立ち上がると近藤さんへと声をかける。
「近藤局長!私もご一緒して構いませんか?」
「いいとも。是非君も伊東さんの話を聞いて、大いに見識を広めてくれたまえ。新選組幹部といえど、剣術ばかりではいかんからな。これからは、広い視野と深い知識を身に着けねばな」
「は……」