第6章 宵闇【土方歳三編】
(この方が、伊庭道場でお会いしていた方が絶賛されていた伊東甲子太郎さん……)
伊東さんは新選組に入隊されると、参謀という立場に配属された。
北辰一刀流の道場主を務められていて、学識も確かな方と伊庭道場で一緒に剣術を学んでいた方に教えてもらった事がある。
「それに西本願寺は以前、長州浪士を匿っていたこともあると聞きますわ。我々が西本願寺に移れば、浪士たちは身を隠す場所を一つ失うことになります」
「そこまで考えての選定というわけですか。成る程……!」
近藤さんは、伊東さんの言葉に凄く関心したように声を漏らす。
だけど、伊東さんの考えに先程まで静かに聞いていた山南さんが異を唱える。
「……僧侶の動きを武力で抑えつけるのは、いかがなものかと思いますが」
山南さんの言葉に、伊東さんは眉を少しだけ動かす。
自分の考えに異を唱えた山南さんに、僅かに厳しい表情をしていた。
「寺社を隠れ蓑にして好き勝手な振る舞いをしていたのは、長州浪士の方ではなくて?京の治安を乱す不逞浪士に配慮して差し上げるなんて、山南さんもお優しいこと」
丁寧な口調に聞こえても、言葉に込められているのは鋭い棘。
山南さんは伊東さんの言葉に悔しげにして、顔を伏せていた。
「……尊皇攘夷派を抑える必要がある、という点に関しては同意しますが」
「じゃあ、何だ?斬り合う時は【やあやあ、我こそは】って名乗りを上げて、正々堂々とやるべきだ、とでも言うつもりか?不逞浪士共がそんな、鎌倉武士みたいなご作法に付き合ってくれりゃいいがな」
「……三郎、口を慎みなさい」
彼の名前は三木三郎さん。
伊東さんの実弟であり、今回は伊東さんと共に新選組に入隊された方だ。
そして、九番組組長に配属されている。
そんな三木さんは、伊東さんにいさめられると悪気が無さそうに笑いなが肩を竦めるだけ。
「おっと、悪い。つい本音が出た」
「皆さん方、ごめんなさいね。この子は昔から、口が悪くて……。……山南さんも、お気を悪くされないでくださいな。あなたのような方も、新選組を大きくしていく上では必要だと思いますし。たとえ左腕が使い物にならなくとも、その才覚と学識は隊の為に大いに役立つ筈ですわ」
伊東さんの言葉に山南さんは口を噛み締め、広間の空気が一気に重くなったのがわかった。
息をするのが難しくなりそうな思い空気ーー。