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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第5章 戦火【土方歳三編】


土方さんの言葉に、武田さんは直ぐに従って私の手首を離してくれた。
強く握られたせいで、少しだけ手首が赤く染っていて痺れている。

「用が終わったんなら、さっさと自分の部屋に戻りやがれ」
「……わかりました。それでは、失礼します」

小さな笑みを浮かべた武田さん、土方さんにそう言葉を告げて大人しくその場を去っていった。
厄介な相手がいなくなった事に、ほっと息を漏らしていれば、土方さんもため息を吐く。

「なんで、てめえはこうも武田に絡まれるんだ」
「それは、私が聞きたいというか……謎です」
「武田も油断も隙も無い野郎だな……」

土方さんは眉間を揉みながら、何回目かのため息を吐く。
そして武田さんが去っていた廊下の方を見てから、彼の姿が無いのを確認すると私へと視線を向けた。

相変わらず不機嫌そうな表情。
そして、疲れが見え隠れしている瞳に目の下に薄らと出来ている隈。

「あの、助けてくださりありがとうございました。部屋に直ぐに戻りますので、土方さんもお仕事は程々にされて休まれてくださいね」

頭を下げて、私は自分の部屋に戻ろうとしたが土方さんに呼び止められた。

「待て……部屋まで一緒に行ってやる」
「え……?なんで、ですか?」
「また武田みたいな奴らに絡まれたら面倒だろうが!さっさと行くぞ」

吐き捨てるように言うと、土方さんは私の前を歩き出した。
私が絡まれないようにと部屋まで送ってくれる、そのぶっきらぼうな優しさが嬉しくて、つい笑が零れてしまう。

「はい!」

やっぱり土方さんはぶっきらぼうだけど優しい。
最初はあんなに怖くて仕方なくて、優しい人じゃないと思っていた。
でも、なんだかんだ厳しそうに見えても新選組の事を思っている不器用な人。

(鬼の副長って呼ばれてるけど、優しい人なんだよね……)

なんて思って廊下を歩いていれば、直ぐに部屋についてしまっていた。
隣の千鶴の部屋は暗く、既に千鶴は眠っているのが分かる。

「部屋まで送ってくださり、ありがとうございました」
「ああ……さっさと寝ろよ」
「はい。土方さんも、お仕事はほどほどに寝てくださいね。明日はきちんと朝餉を食べに来てください。夜更かしは駄目ですからね」
「わかったわかった。たく、本当に口煩せえ……」

土方さんは苦笑を浮かべると、私に背中を見せてそのまま去ってしまった。
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