第5章 戦火【土方歳三編】
武田さんの言葉に眉間に皺が寄る。
すると、武田さんは私を鼻で笑いながら値踏みするように見てきた。
「剣術の才能も無く、隊士としてまともに働けないから小姓なのだろう?小姓と言っても、役に立たさなそうだが」
「何が、仰りたいのですか」
「あの時は、土方副長が来たから事情を聞かなかったが……。どんな手で土方副長や近藤局長に擦り寄った?何故、剣術の才も無さそうなお前たち兄弟が小姓になれた」
どうやら、武田さんは自分よりも剣術の才覚もなさげな私や千鶴が小姓でいる事が気に食わないらしい。
たまに会えば、こうして嫌味のように言ったり探ってきたりする。
「擦り寄ったのではなく、縁がありまして小姓を勤めさせてもらっているだけです。確かに、剣術の才は皆さんよりはありませんが、決して刀を握れないわけではありません」
「強がると一層哀れに見えるな。それに、本当に縁があって小姓になったのか?」
面倒な事になってきた。
そう思いながら、どうやって武田さんから逃げようかと考えていれば、返事をしない私に頭にきたのか武田さんが声を荒らげる。
「返事をしたらどうだ!この武田観柳斎が聞いているというのに!」
「っ!?」
武田さんは私の手首を掴んできた。
しかも、かなり力が込められていて手首に痛みが走り、思わず顔を顰めてしまう。
前から思っていたが、武田さんは荒っぽくて他人を小馬鹿にする所がある。
そして、自分より下と思っている人物に対して容赦が無い。
(どうしよう……)
助けを呼ぶべきかどうか。
でも、ここで助けを呼ぶのは迷惑かもしれないから、自分で何とかするべきなのだろう。
そう思った時だ。
「おい、武田!何をしてんだ、おまえは」
「……っ!これは、土方副長……」
鋭い声が飛んできたかと思えば、武田さんの背後には厳しい顔つきの土方さんが立っていた。
「土方さん……」
「こんな夜更けに八木邸に何の用だ?お前が寝泊まりしているのは前川邸だろう」
「明日には、近藤局長が江戸に向かわれるので挨拶をと思いまして。その際に、この者が彷徨いてるのを見かけたので何をしているかと思いまして」
相変わらず、近藤さんや土方さんに対しては態度を変える武田さん。
そんな彼に土方さんは未だに厳しい顔をされていた。
「そいつは、俺に茶を届けに来ていただけだ。分かったらさっさと手首を離してやれ」