第5章 戦火【土方歳三編】
土方さんの言う通り、私は近藤さんに稽古をつけてもらった後に斎藤さんにも稽古をつけてもらった。
そのせいか手のひらは赤く擦れている。
「コンを詰めすぎないようには、しています……」
「人の事、言えねえだろうが……」
「土方さんよりはマシです!」
「うるせえ。あんまり、無理してると手も酷いことになるぞ」
そっぽを向くと、土方さんはお茶を啜りながら引き出しから何かを取り出した。
すると私の方へと巾着袋を突き出す。
「これは……?」
「おまえに迷惑ばかりかけてるんだから、少しは礼ぐらいしたらどうだって近藤さんがうるせえんだよ。だから、持って行って姉とでも食え」
「え、え?」
土方さんが突き出してきた巾着袋を手に取り、袋を開けてみれば中には金平糖が入っていた。
桃色、緑色、白色という彩りみどりの金平糖を眺めてから土方さんへと視線を向ける。
「金平糖……ありがとうございます」
「……事情を知らねえ隊士に絡まれる前に、部屋に戻ってさっさと寝ろ」
「土方さんも、ご無理されずに寝てくださいね」
「わかった、わかった」
まるで犬か猫を追い出すように、手で払う仕草をする土方さんに苦笑しながら土方さんのお部屋を出た。
そして、手の中にある巾着袋を見ながら廊下を歩いていくと、人の気配を感じる。
(あ……隊士さんだよね。でも、こっちの八木邸にいるなら幹部の方だろうし)
思わず身体が強ばる。
何度か、八木邸では私の事情を知らない隊士さんや武田さん達と遭遇していた。
だがら、変に絡まれないようにと警戒しているのだ。
(特に、武田さんは厄介なんだよね……。遭遇した時に、無視されるときもあれば、変に絡まれるときもあるから)
どうか、私の事情を知っている幹部の方でありますように。
そう願いながら、私は曲がり角のある廊下道を歩いていた時だった。
私の願いは儚く散ってしまった。
「貴様は……土方副長の小姓か」
「た……武田さん。こんばんは……」
一番会いたくなかった武田さんだ。
私は顔を引き攣らせながら、頭を下げて挨拶をしてその場を離れようとした。
「待て。貴様、この時間にこの辺りで何をしていた」
「え……土方さんに、お茶を」
「この夜中近くにか?本当に、土方副長に茶を届けただけなのか?」
「……どういう意味ですか、それは」