第5章 戦火【土方歳三編】
「ああ、確かに厳しかったが……、今とはまた違う意味で充実していたよ」
遠い目をしながら、懐かしそうに言葉を紡ぐその姿に私は少しだけ羨ましさを感じてしまう。
もし、私や千鶴が近藤さんたちがいた試衛館道場の近くで生まれていたら、近藤さん達とはこんな出会いではなかったのかもしれない。
私の気持ちを知ってか知らずか、近藤さんは私を見ながら優しく語りかけてくれる。
「……先程千尋君は、【門弟ではない私に】なんてことを言っていたが……」
「え?あ、はい」
「今、天然理心流四代目である俺が直々に指導したということは、ある意味では君も天然理心流の門下だ。いわば、トシや総司、源さんとも同門ということになるなあ」
「……はい!」
その言葉が凄く嬉しかった。
嬉しくてたまらなくて、私は近藤さんへとお礼を込めて頭を下げる。
「近藤さん、今日は本当にありがとうございました……!」
「ああ!」
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その日の夜。
土方さんは【また握り飯を突っ込まれたらたまらない】と言って、夕餉をきちんと食べてくれた。
だけど、夕餉の片付けを終えて土方さんの部屋の近くを通り掛かった時だ。
「また、お仕事されてるのかな……」
行灯の光が土方さんの部屋を照らしていて、ふすまには土方さんが座られている影が写っている。
その姿を見て、私はまた勝手場に向かうとお茶を煎れた。
土方さんはコンを詰めすぎだと思う。
無理をしては、身体を壊されると言っても休まずにお仕事をされるから心配だ。
「土方さん、雪村です」
「入れ」
声で分かるのか、もう私を【妹の方か】とは言う事が無くなった。
私はふすまを開けると部屋に入り、仕事をされている土方さんを見てため息を吐く。
「どうぞ、お茶です。あまり、コンを詰めすぎないように休まれてください」
「休んでる、休んでる」
「休まれていないでしょう!夕餉の時ぐらいしかお仕事されていない気がします」
「たく……なんでおまえはこうも口煩せえんだ」
土方さんはため息を吐きながら、私が持ってきた湯呑みを手にするとお茶を一口飲む。
そして私の方を見ると眉間に皺を寄せた。
「おまえこそ、コンを詰めすぎないようにしろ。聞いたぞ、昼間から夕方まで近藤さんに稽古を付けてもらったってな。しかもその後は斎藤にも稽古を付けてもらったんだろ」