第1章 始まり【共通物語】
「心配しなくても大丈夫さ。なりは怖いが、気のいい者たちばかりだよ」
昨夜の事を思い出せば、気のいい者という言葉に納得はしにくい。
それに、新選組は人斬り集団という悪い噂もあるので井上さんには申し訳ないが、彼の言葉は信用はイマイチ出来ない。
「一番年の若い藤堂君は、君たちよりちょっと年上くらいだよ。それに、永倉君と原田君という賑やかな二人組もいるから大丈夫」
大丈夫と言われても頷けなかった。
だって、思い出すのは昨夜の人を斬っている新選組の人たちの姿ばかり。
千鶴も頷けないのだろう。
強ばった表情は変わらないままだし、不安げに目が揺れているのが分かる。
そして、井上さんは申し訳なさそうに微笑みながら私達を部屋から連れ出した。
「……失礼します」
「失礼します……」
井上さんに案内された部屋に入れば、恐らく新選組の幹部の人達がそこに居た。
突き刺すような視線が一斉に向けられ、千鶴が身を固くしたのを見て、一歩前に出ると千鶴を自身の体で隠すように立つ。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「……寝心地は、あまり良くなかったです」
「全然、眠れませんでした」
「ふうん……。そうなんだ?さっき僕が声をかけたときには、君たち、全然起きてくれなかったよね。幸せそうな寝顔で、ぐっすりだったみたいだけど」
「そ、それって……!!」
「……からかわれているだけだ。総司は、あんた達の部屋になど行っていない」
沖田さんはどうやら人で遊ぶ所があるようだ。
それに、私はずっと寝ずにいたのだか……。
「それに、私ずっと起きてたけどあの人部屋になんて来てないよ、千鶴」
私と斎藤さんの言葉に千鶴は無言で沖田さんを見やった。
怒っているというよりも、なんとも複雑そうな表情をしている千鶴に小さくため息を吐く。
すると、沖田さんは微笑んたまま斎藤さんに目を向け、わざとらしく茶化すように喋りだす。
「もう少し、この子達の反応を見たかったんだけどな。一君もひどいよね、勝手にバラすなんてさ」
「……ひどいのは斎藤さんじゃなくて、沖田さんのほうだと思いますけど……」
「え〜そうかな?にしても、もう一人の子本当に寝てなかったんだね。目に隈が出来てるけど……そんなに警戒してたの?」
微笑みながら沖田さんは私の事を目を細めてから見てくる。
その視線がなんとなく、居心地が悪くてそっぽを向いた。