第1章 始まり【共通物語】
「千鶴、千鶴……」
「……ん……?」
名前を何度か呼べば千鶴の目がゆっくりと開いていく。
そして私の顔を目に写すと、少し戸惑ったような表情を浮かべる。
「ええと……」
最初は戸惑っていた表情をしていた千鶴だが、直ぐにあの夜の事を思い出したのだろう。
恐怖と戸惑いなど、色んな感情が混じった瞳になりながら自分の状況に息を吐いた。
「……そうだ。私達の、家じゃ…部屋じゃないんだったね」
私と千鶴は縄でぐるぐると縛り上げられている。
ここに、新選組の本拠地に来るなり沖田さんに縄で縛られてこの部屋に放置されてしまった。
そして、最初は気を張っていた千鶴だけど心身共に疲れてしまっていたのだろう。
途中で眠ってしまっていた。
叶うことなら、何時ものように千鶴には暖かい布団で眠っていてほしかった。
私も、何時ものように布団で朝を迎えたかった。
「全部、悪い夢なら良かったのに……」
「そうだね……」
「私達、どうなるんだろうね…千尋」
その言葉に、何も言えなかった。
私もこれからどうなるのか分からない、もしかしたら最悪な事が起きてしまうかもしれない。
悪い方へと考えが行っていた時であった。
ゆっくりとふすまが開いて、人の良さそうな中年ぐらいの男性が顔を覗かせる。
「ああ、目が覚めたかい?すまんなあ、こんな扱いで……。今、縄を緩めるから少し待ってくれ」
「え……?」
「えっ、と……」
彼は苦笑を浮かべるなり、私と千鶴をぐるぐる巻きにしていた縄を解いてくれた。
だが、手の縄だけは解いてはくれない。
「あの、あなたは……」
「ああ、そうか。私はね、井上源三郎と言うんだ」
「井上さん……ありがとうございます」
「ありがとうございます……」
「さて、ちょっと来てくれるかい。今朝から幹部連中で、あんた達について話し合っているんだが……。昨夜、あんた達が何を見たのか、確かめておきたいってことにってね」
昨夜という言葉に、あの血塗れの夜を思い出してしまう。
だが、それを忘れるように軽く頭を振ってから千鶴と顔を見合わせると、千鶴が井上さんへと返事をした。
「……わかりました」
ゆっくりと立ち上がる千鶴に続いて、私もゆっくりと立ち上がるが少しよろけてしまう。
これから、本当にどうなってしまうのだろうと考えていれば井上さんが明るく声をかけてきた。